コラム

過大評価しすぎ? 世界のSNSユーザー数ランキング15位のツイッターに対して、絶大な影響力を感じてしまう訳

2022年12月17日(土)18時49分

マスクは絶大な影響力を持つツイッターをどう変えたいのか PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS

<日本はツイッターのユーザー数がアメリカに次ぐ世界2位。だが、ツイッターの世界は実世界を忠実に反映しているわけではない>

ツイッターは、ヘビー級のチャンピオンをノックアウトする力を持った軽量級ボクサーと言っていいかもしれない。ここでクイズを1つ。世界のソーシャルメディアのユーザー数ランキングで、ツイッターは何位か(月間アクティブユーザー数で判断)。

たぶん4位か5位くらい? いや、正解は15位だ(14位はピンタレスト、16位はレディット)。ツイッターの4億3600万人のユーザー数は、フェイスブックの7分の1程度にすぎない。意外に少ないと感じた人も多いだろう。それほどまでに、ツイッターの存在感は絶大だ。

どうして、私たちはツイッターに対して、実際のユーザー数を大きく上回る影響力を感じているのか。

それは、最近ツイッターを買収した企業家イーロン・マスクの表現を借りれば「デジタル世界における街の広場」として機能し、多くの意見や主張が交わされる場になっているからだ。

このプラットフォームが文化や政治、メディアに関する言論に及ぼす影響は極めて大きい。しかも、ユーザー数が多い国の1位と2位は、世界で最も重要な民主主義国であるアメリカと日本だ。

しかし、ツイッターの世界は実世界を忠実に反映しているわけではない。世界の富の大多数を一握りの富豪が保有しているのと同じように、ツイッターの投稿の80%は、わずか10%のユーザーによるものだ。

ユーザーの年齢層にも偏りがある。アメリカのユーザーの42%は18~29歳、27%は30~49歳、18%は50~64歳。65歳以上の割合は7%にすぎない。

メディアが2020年大統領選の民主党予備選と今年11月の中間選挙の事前予測でジョー・バイデンを過小評価した一因は、ここにある。メディアの記者たちは、時にツイッターを世論の鏡のように思い込んでいるが、バイデンの中核的支持層はツイッターの世界の外にいるのだ。

世界規模で見ると、ユーザー層の偏りは一層際立っている。ユーザーのおよそ7割が男性で、女性は3割。80%は裕福なミレニアル世代だ。こうした偏りがツイッター上の政治的・文化的言論に大きな影響を及ぼすことは、想像に難くない。

マスクの目的は「言論の放火犯」になること?

こうした問題に拍車をかけかねないのが、マスクによるツイッター買収だ。マスクは、ラッパーのカニエ・ウェスト(現在は「イェ」に改名)やドナルド・トランプ前大統領など、物議を醸す言動を繰り返す人物のアカウント凍結を解除(その後、ウェストは再凍結)。

ロシアのプーチン大統領の主張を代弁し、新型コロナに関する誤情報の拡散を防ぐ措置を打ち切った。中間選挙では、共和党に投票するよう自らのアカウントのフォロワーに公然と呼びかけた。

マスクは、ツイッターが莫大な赤字を生むことを理解している。買収に踏み切った主たる動機は、お金を儲けることよりも、いわば「言論の放火犯」になることなのかもしれない。ツイッターを利用して、世界の公共空間を自分好みの場に──けんかっ早く、過激な言葉で対立をあおり、へ理屈を弄する自分自身の映し鏡のような空間に──変えようとする可能性が高い。

これまでマスクは、半ば浮世離れした壮大な目標を打ち出して、ビジネスの世界で目覚ましい成功を収めてきた。人類の火星移住を大目標に掲げる人物には、言論空間を自分好みの場につくり変えることなど、たやすい目標に見えているのだろう。

しかし、私の目には、この目標を達成する可能性は、電気自動車ビジネスで成功する可能性より小さいように見える。世界のためを思えば、私の予想が当たってほしいものだが......。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story