コラム

「フェイスブックがデマを流して人を殺す」と非難したバイデンの愚かさ

2021年07月28日(水)11時50分

バイデン(左)の影響力はザッカーバーグに遠く及ばない? FROM LEFT: AL DRAGOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES, YASIN OZTURKーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<新型コロナワクチンの情報をめぐり巨大SNSを非難した米大統領が残した数々の汚点>

マーク・ザッカーバーグは、軍隊こそ動かせないが地球上で最も影響力のある人物と言っていいだろう。

フェイスブック社のサービスの利用者数は世界で30億人近く。これは、中国、アメリカ、EU、日本、ロシアの人口を合わせたより多い。同社の株式時価総額も1兆ドルを優に突破している。

この世界最大のソーシャルメディアの影響力は、世界のどのリーダーの言葉より強力だ。私たちの思考、情報の取得、そして行動に及ぼす影響の大きさでフェイスブックを上回る存在は見当たらない。

最近、そのザッカーバーグと世界で最も強力な政治指導者が正面から激突している。バイデン米大統領は7月16日、フェイスブックが新型コロナワクチンに関するデマを流し、その結果としてワクチンの普及を遅らせて「人を殺している」と批判した。

フェイスブック側は、これに激しく反論している。同社の副社長は、次のような声明を発表した。

「データによれば、アメリカにおけるフェイスブック・ユーザーの85%は、ワクチン接種を既に済ませたか、接種を希望している。バイデン大統領が掲げていた目標は、7月4日までに国民の70%の接種を終えるというものだった。つまり、大統領の目標が達成できなかったのは、フェイスブックが原因ではない」

バイデンがザッカーバーグにかみつくのは、これが最初ではない。2020年の米大統領選で民主党候補者指名の獲得を目指していたバイデンは、ザッカーバーグを潜在的なライバルの1人と見なして攻撃した。2019年12月のニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、ザッカーバーグを「大きな問題」だと評し、2016年大統領選でロシア側と共謀してトランプ前大統領を勝たせるという「犯罪」に近い行為に手を染めた可能性まで示唆した。

しかし、バイデンのフェイスブック批判は、ワクチンデマの件でもロシア疑惑の件でも有効性を欠く。まず、法的に言うと、そもそもフェイスブックのようなソーシャルメディア企業は、基本的にユーザーが投稿したコンテンツの内容について法的責任を問われないものとされている。これは、表現の自由を保障した合衆国憲法修正第1条などに基づくものだ。

今回の行動は、戦術面でも裏目に出る可能性がある。フェイスブックに強圧的な態度を取り、感染症危機の責任を押し付けるような振る舞いは、バイデンが弱々しくて、他人のあら探しばかりしているという印象を強めてしまう。これは、2024年の大統領選で再選を目指す上では得策でない。バイデンは発言を撤回したが、今回の失言はワクチンをめぐる社会の党派的亀裂を深める結果も招いた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story