コラム

セクハラ疑惑のクオモ知事を讃えてきた米民主党のご都合主義

2021年03月16日(火)12時45分

一時は「クオモを大統領に」という声も上がったが…… SETH WENIGーPOOLーREUTERS

<トランプ政権の汚職や虚偽を批判し続けたのに、高齢者施設の死者数を過少報告するなどコロナ対応でも失態を続けたNY知事にはだんまり>

ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)のさなか、同州出身のトランプ大統領(当時)のアンチテーゼとして世界的名声を博した。

だが、もしクオモが今後も政治家を続けたいなら、第45代大統領と同じ武器が必要だ。どんなスキャンダルにも耐えられるテフロン製の盾が。

2020年のパンデミック初期、グラフを多用したクオモの「事実のみを述べる」記者会見は大評判になった。主流メディアはクオモを「真の国民的指導者」と呼び、バイデン現大統領に代わって民主党の大統領候補になる可能性がささやかれたほどだ。

アメリカが経済と公衆衛生の両面で危機に瀕していた当時、クオモは確かに最も威厳のある政治家だった。ほとんどの主要メディアはトークショーで称賛の言葉を送り、セレブたちは「セクシーなクオモに夢中」と宣言した。

だが今、同じメディアの大物たちは気まずい思いで前言を撤回している。クオモはコロナ対応で称賛を集めた一方で若い女性に脱衣ゲームに誘うなど、セクハラ疑惑が次々に浮上したのだ。3月12日の時点で7人の女性が知事のセクハラを告発している。

クリントン政権で住宅都市開発長官を務めたクオモは、政界のサラブレッドだ。父親のマリオもニューヨーク州知事で、一時は大統領の有力候補と見なされていた。だが結局、マリオは大統領選出馬を断念。ビル・クリントンが大統領になると、息子が2期目の同政権で閣僚に登用され、初めて全国的な注目を集めた。政治家クオモの初期のキャリアは、ロバート・ケネディの娘と結婚していた時期と重なる(その後離婚)。3人の娘たちは、第35代アメリカ大統領の弟の孫だ。

以前の私なら、バイデンの次に大統領になる可能性が高いのは誰かと聞かれたら、クオモかトランプと答えていただろう。だがクオモは現在、民主党主導のニューヨーク州議会による弾劾調査に直面している。同議会の上院院内総務や下院議長は知事の辞任を要求。同じ民主党のニューヨーク市長も、辞任すべきだと言っている。連邦議会でも、州選出の民主党下院議員のほぼ半数がクオモ辞任と副知事の昇格を求める公開書簡に署名した。

私たちはメディアの扱いが巧みなカリスマ的政治家にどれほど弱いか、ここで立ち止まって考えるべきだ。コロナ対策に失敗したトランプを聖人扱いした共和党支持者を民主党支持者は批判したが、クオモに対する自分たちの反応も同じではないのか。

ニューヨーク州が全米最多の感染者と死者を出していたとき、なぜクオモ人気が爆発したのか。どんな指標を見ても、クオモの対応が全米最悪である可能性に気付けたはずだ。だが強いリーダーを求める人々は、クオモの威圧感と流暢なプレゼンテーションとタフな口調に魅了された。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米フェデックス、6─8月期利益が予想上回る コスト

ワールド

米下院議員、中国の希土類規制解除なければ航空機発着

ワールド

高市氏、午後2時半から自民総裁選政策で記者会見

ワールド

プーチン氏、コザク大統領府副長官を解任 長年の側近
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story