コラム

トランプの成績表:サイボーグ超えの破壊力で自国の評判を落としたが...

2019年12月19日(木)11時45分

magSR191219trump-chart.png

ツイッターの世界屈指のヘビーユーザーであるトランプの「通知表」 12月24日号「首脳の成績表」特集20ページより

株価は史上最高値を更新し続け、失業率は歴史的な低水準を記録。10年続いた拡大局面はそろそろ終わるとの観測もあったが、当面は景気の腰折れはなさそうだ。とはいえ長期的な見通しについては財界のリーダーや著名なエコノミストは非常に悲観的だ。

内政面では取り立てて成果はなく、不名誉な失敗がいくつかある。国民皆保険オバマケアの撤廃と代替案の成立は不発。親に連れられて幼少時に不法入国した若者の強制送還を免除する措置も廃止できなかった。一方でトランスジェンダーの米軍入隊を禁止する措置は合憲とされる可能性があり、選挙戦が佳境に入れば中絶論争も再燃しそうだ。

安全保障はマイナス点しか付けようがない。イスラム教徒が多数を占める国からの入国禁止措置は、アメリカの国是に反する。国境の壁建設のレトリックと実施は半ば茶番、半ば大失態だ。

自国の情報機関よりもロシアのウラジーミル・プーチン大統領の言い分を信じる姿勢を見せたことは、ただの失態では済まされない。極め付きは、再選に向けて対抗馬を蹴落とす材料を手に入れるためウクライナの大統領に圧力をかけた疑いが持たれること。そのために今や弾劾裁判にかけられようとしている。

(編集部注:12月18日、米下院はトランプを弾劾訴追する決議案を賛成多数で可決。トランプは弾劾訴追された)

だがトランプの最大の失敗はリーダーとしての言動にある。分断のタネをまき、アメリカの理念を否定した。もしも敵国が人造人間をアメリカの大統領に据えて社会を分断し国際的な地位を低下させようとしても、ドナルド・トランプほど破壊力があるサイボーグはまず造れないだろう。

大統領はアメリカをより偉大な国にし、全てのアメリカ人の生活を向上させるべき存在だ。だがトランプは自分のパイを大きくすることに必死で、支持者の受けを狙うばかり。ツイートの8割方は反トランプ派を罵倒するもので、自分と違う考えを認めない視野の狭さでアメリカをより小さくした。ジョージ・W・ブッシュ元大統領はトランプの就任演説を聞いて「何だかおかしなもの」だったと感想を述べたが、就任後のトランプはどんどんおかしな方向にアメリカを導いている。

それでも再選される確率は40%。有権者が彼に2期目を与えるなら、自国の大統領には人格、品位、能力が不要だと判断したことになる。その場合、不合格点をもらうのは有権者にほかならない。

<2019年12月24日号「首脳の成績表」特集より>

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story