最新記事
シリーズ日本再発見

『美少女戦士セーラームーン』が今なお世界を魅了し続ける理由...さまざまな「コラボ」から30年を振り返る

A 30-Year Obsession

2023年07月06日(木)13時20分
エメラルド・L・キング(タスマニア大学講師)
『美少女戦士セーラームーン』

映画『美少女戦士セーラームーンCosmos』では男性アイドルが女性のセーラー戦士に変身する ©武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会

<キティにコンドームに高級ブランド......さまざまなコラボから作品とファンの「成長」をたどってみれば>

『美少女戦士セーラームーン』が世に出てから約30年。その人気が色あせていないことは、ブランドがいまだにコラボレーション商品を出していることからもうかがえる。高級ブランド「ジミー チュウ」のラインストーンがちりばめられたブーツに、オーストラリアのカジュアルブランド「ブラックミルク」のイラスト入りレギンス、限定デザインの文房具などなど......。

シリーズ最終章である映画『美少女戦士セーラームーンCosmos』の6月公開を受けて、私は自問せずにはいられなかった。いまだに私たちがセーラームーンに夢中なのはなぜだろう?

セーラームーンは特別な力を持ち、かわいい衣装を着た女の子が主人公のアニメや漫画、つまり「魔法少女もの」だ。そのジャンルの最初の作品というわけではないが、セーラームーンには人々の想像力をかき立てるとともに、日本アニメを──そして世界のアニメを──大きく、そして永遠に変える何かがあった。

原作は1991年に発表された『コードネームはセーラーV』を原案として、少女漫画雑誌に92~97年に連載された武内直子作の漫画。アニメシリーズの放送も日本では92年に始まった。吹き替え版が世界各地で放送されるようになったのは95年のことだ。

物語の中で主人公の月野うさぎと学友たちは悪の勢力と戦ったり、恋に落ちたり、提出日までに宿題を終わらせようと必死になったりする。つまりセーラームーンの新しさは、少女たちの物語に「スーパー戦隊シリーズ」の特徴を取り入れたところにあった。セーラームーンは基本、女の子の友情と恋の物語だ。だがそこに、各話で新しい怪物が登場し、色分けされたスーパーヒーローたちが活躍するという要素を付け加えたわけだ。

ちなみに原作はいわゆる「少女漫画」だ。少女漫画というのはもともと、対象となる読者を示すマーケティング用語だが、今ではジャンルやスタイルを指す言葉と考えることもできる。

少女漫画であれ少年漫画であれ、展開の速いアクションものから、恋愛ものやSF、異世界もの、サスペンスまでさまざまなジャンルの作品がある。ただ、女の子や若い女性向けの漫画はファッションと結び付きやすいし、最新ファッションに身を包んだキャラクターが描かれることもしばしばだ。

武内も作中でディオールやミュグレー、クリスチャン・ラクロワのコレクションを取り上げてきたことで知られる。最近では、シャネルの23年コレクションを身にまとったセーラー戦士たちのイラストを描いている。

90年代後半にセーラームーンのアニメを見ていた欧米や英語圏の若い女性ファンにとって、セーラー戦士は一種のロールモデルだった。ドラマ『バフィー~恋する十字架~』や『ゼナ:プリンセス戦士』の主人公たちと同様に、プリンセスであることと、誰かをガツンとやっつけることは両立し得ることを示したのだ。

次に戦うべき相手は?

これまでの30年間でセーラームーンは、連載誌の付録はもちろんのこと、企業やブランドとのコラボを通しさまざまなグッズを生んできた。ユニクロのTシャツにもなったし、ハローキティと組んだ製品も出ている。

冒頭で触れたジミー チュウのコレクションは2月に発売された。目玉はピンクのラインストーンがちりばめられた受注生産のブーツで、一足約190万円だ。

20周年の時には、ランジェリーショップのピーチ・ジョンとのコラボで、セーラー服風のブラジャーと、それに合わせたショーツのセットが発売されて物議を醸した。20歳(当時の日本の成人年齢)ともなればもう大人、ということだったのかもしれないが。

考えてみればジミー チュウがセーラームーン30周年に合わせてコラボしているというのも面白い。キャラクターたちもファンたちも、ブランド靴をありがたがる年齢になっているはず、ということだ。

でも多くの人にとって最も驚きだったのは、日本の厚生労働省による梅毒をはじめとする性感染症(STI)予防の啓発活動と、その一環として配られたコンドームとの2016年のコラボだろう。この手の啓発用キャラクターにセーラームーンがふさわしいのかと疑問視する声も上がったが、STIが打倒すべき現代のモンスターであることに間違いはない。

【画像】厚生労働省が配布した「セーラームーンコンドーム」

最新作の映画は前編・後編に分かれていて、現在は後編の公開中だ。内容的には90年代のアニメシリーズ最終シーズン『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』と重なっている。

そこで語られるのは、全シリーズ中でもとりわけ不思議なストーリーだ。3人組の「セーラースターライツ」は男性アイドルとして活躍しているが、女性のセーラー戦士に変身するのだ。

日本でもアメリカでもオーストラリアでも、性的少数者に平等な権利を与えることに対する抵抗は今も根強い。そんな社会背景の中で、本作がどのように受け入れられるか興味深い。

セーラームーンは90年代のガールパワー、つまり若い女性の自立を守る存在であり続けるのだろうか。それとも真実と正義を守る戦士として、月に代わってお仕置きをし、性的少数者の権利も守る存在へと進化するのだろうか。

The Conversation

Emerald L King, Lecturer in Humanities, University of Tasmania

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イーライリリー経口肥満薬、売上が今年数十億ドルの予

ワールド

ロシアへ経済訪問団派遣を計画との報道、「事実ではな

ワールド

パリ警察が警備強化、爆破未遂受け 一部金融機関は在

ビジネス

欧州企業、第1四半期は4%増益の見通し エネルギー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 9
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 10
    200年前の沈没記録が裏付けられた...捕鯨船を海の藻…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中