最新記事
シリーズ日本再発見

エヴァンゲリオン、美しく静かなラスト...ファンもこの世界から踏み出す時がきた

The True Finale at Last

2021年09月08日(水)19時40分
カレン・ハン

ここで描かれるのは、登場人物たちの精神や物語の世界を高次なレベルで見つめる旅だ。場所もころころ変わる。テレビアニメ版や、その映画化である『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の結末と、トーンやメッセージが必ずしも懸け離れているわけではない。ただ『シン・エヴァ』は結末に至るまでの道筋がずっと分かりやすく、物語の終着点であることを実感させられる。

これまでのエンディングに比べると、『シン・エヴァ』の結末には希望が感じられる。曖昧な点も少なく、エヴァンゲリオンとの完全な決別が描かれている。明確に「ハッピー」なエンディングになっているのだ。

ロボットは「手段」だった

『シン・エヴァ』の多くの場面同様、最後の場面も比較的静かで、ロボットは基本的に、登場人物たちの感情に重心を置いた作品を作るという目的のための「手段」だったことがはっきりと示される。この点こそが他のロボットアニメと本シリーズの一番の違いだ。主人公としてのシンジの行動から事件の首謀者としてのゲンドウの行動に至るまで、登場人物たちが何を感じたかが物語全体を動かしている。

このあたりからも、新劇場版4部作はシリーズの最終版と考えることはできそうだ。テレビアニメ版と比べ、一貫性のある物語を作るという点でも成功している。作り手である庵野が以前より老成しているのだから、それは当然なのかもしれない。そういう意味で、続編の可能性を断った終わり方は適切だと言える。

シリーズ全体に通底していたのが、「いかに前に進むかを学ぶ」という要素だ。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』には実写部分があって映画館の観客が映し出される。その際にも外に一歩踏み出して人生を試してみることの大切さが説かれるが、『シン・エヴァ』ではそれが少し高次的に描かれる。

シンジたちは新たな人生を受け入れ、エヴァンゲリオンの世界を後にして一歩を踏み出そうとしている。シリーズ開始から26年、私たちもそうすべきなのかもしれない。

©2021 The Slate Group

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中