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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
ドジョウ首相と日本国民のバランス感覚
もう既に旧聞の類に属するかもしれないが、8月末にあった民主党代表選挙を取材した。「自分語りばかり」「目指す国家像がない」と酷評された候補者たちの演説を現場で聞いたが、5人の中で一番ストンと胸に落ちたのが、最も自分語り、さらに言えば「自虐語り」をした野田新首相だった。おそらく「有権者」だった民主党の国会議員も同じ感想だったのではないか。野田氏と海江田氏の意外な票差にはその影響もあったはずだ。
小泉首相が06年に退任してから、政権交代をまたいで安倍、福田、麻生、鳩山、菅と続いた「1年政権」の主たちは、いずれもどちらかといえば自己愛に満ちた人々だった。野田氏の「自虐キャラ」ぶりは戦後の歴代首相の中でも突出している。社会党初の首相だった村山富市氏や、「冷めたピザ」の故小渕恵三氏がややそれっぽい存在だったが、これだけ自分の体型や顔を笑いのネタにする日本のトップは野田氏が初めてだろう。
得てして自分に自信のない人ほど存在を大きく見せようとしたり、他人に高圧的に出るものだ。逆に言えば、他人の前で自虐的な人ほど実は自分に自信があり、侮れないということになる。小泉氏以降の歴代首相は、いずれも最初こそ記者への愛想も良かったが、政権運営が行き詰るに連れだんだんぶっきらぼうになり、最後は会見で記者と目を合わさず、挙句の果てに無視する......というトラブルを繰り返してきた。
彼らがメディアに大人気ない態度をとったのは、一義的には酒を飲む場所から奇抜なファッションまで、どうでもいいことを根掘り葉掘り報じるメディアの責任だ。ただ、日本のトップである首相が報道にいちいち目くじらを立てるのは、そのプライドの高さもあったと思う。本人が自虐キャラで売り出せば、メディアは少なくとも首相の見た目や性向について否定的な報道をしにくい。野田氏の「自虐キャンペーン」にはそんな計算も働いているはずだ。
大雑把に言って、小泉氏の退任以降、日本の首相は右派(安倍、麻生)と左派(福田、菅)の交代を繰り返してきた(左右を分けがたい鳩山氏は......「宇宙派」と言うべきかもしれない)。明らかに右派の野田氏が今回首相に選ばれたのは、日本国民のバランス感覚をどこか反映している。
トップが性スキャンダルにまみれた長期政権(どこの国と特定しているわけではない)と、身ぎれいな短命政権のどちらがいいか――という究極の選択に答えはない。ただ日本人が大嫌いな自分たちの「首相1年制」も、実は左右どちらにも振れすぎないための日本人なりのバランス感覚なのかもしれない。
「自虐首相」が選ばれたのも、自己愛ばかりを見せ付けられて嫌気が差した日本人のバランス感覚ゆえ、のはずだ。打たれ強くかつ国民の支持もあるとすれば、ドジョウ首相、意外に長期政権になるのではないか。何となくドイツのメルケル首相っぽくもある。
――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)
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