コラム

フセインの莫大な資産は何処へ?

2011年07月11日(月)18時48分

 アメリカを中心とする多国籍軍がイラクに侵攻し、イラク戦争が開戦されたのは2003年のこと。10年8月にはバラク・オバマ米大統領が「ブッシュ(前大領)の戦争」に対して終戦を宣言、戦闘部隊を完全撤退させた。その後イラクでは選挙が行われるなどしたが、いまだ政府は主要大臣ポストなどをめぐってもめている。ヌーリ・マリキ首相と、昨年の選挙で最大議席を獲得したアヤド・アラウィ元首相の間で対立が続き、アメリカの仲介で権力を分担する協議も難航している。
 
 そんなイラクで、イラク戦争時の「カネ」にまつわる話が噴出している。イラクのオサマ・ナジャイフィ連邦議会議長が6月、米軍を中心とする占領統治の1年目に、「多額のカネが行方不明になった」と語った。イラクの政府関係者によれば旧フセイン政権のカネは米軍が管理するとの協定が04年に結ばれ、つまり現金が行方不明になっている責任は米軍にあると言う。アメリカ政府はイラク戦争後の復興資金にするためにフセイン大統領や旧フセイン政権から接収した現金をイラクに輸送しているが、その中からも180億ドルが行方不明になっているという。現時点で、誰が資金を使い、誰が懐を暖めたのかは分かっていない。
 
 この話を聞いて、米軍統治下のイラクで現金移送に関わった米軍関係者との会話を思い出した。この人物は「米軍がバグダッドから、多額の現金を輸送した」と、興奮気味に語った。「バグダットで大量の紙幣を受け取って、バグダット近郊にある銀行のような施設の地下に輸送。運んだのは米ドルやイラク紙幣で、サランラップのようなビニールにまかれたり、麻の袋に入っていた現金、2500万ドル(約20億円)を運んだ。輸送トラックで運んだが、荷台は現金が山積みで、兵士たちは札束の上に座って移動したよ」
 
 イラクが大混乱期に莫大な現金を運んでいたという話は驚きだが、多額の現金が動くのも戦争の1つの側面ではある。イラク戦争が始まる直前、フセイン大統領は米軍と戦うため、中央銀行から現金1億3200万ドルを引き出したことが分かっている。その現金は息子のクサイが受け取り、反米勢力の過激派などに配られたというが、実際にはその使途は判然としない。話はそれるが、80年代にソ連がアフガニスタンに侵攻した当時、アメリカはソ連軍と戦うムジャヒディンに資金提供を行っていた。イラクでも裏では多国籍軍と戦うためにフセイン政権側から反米勢力に莫大なカネが配られたとみられる。
 
 また戦争や占領ともなれば、莫大な資産が接収される。日本でも第二次大戦後、日本銀行などから連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)経済科学局のフレデリック・マッカート少将が日本軍の莫大な資産を接収したとする話があった。そのカネはマッカートの頭文字「M」をとって「M資金」と呼ばれるようになり、詐欺の材料にも使われるようになった。M資金から資金援助をするので手数料などを支払え、という手法だ。これまで多くの大手企業や芸能人がこの詐欺の被害に遭っている。
 
 フセイン大統領やフセイン政権の資産から接収され、イラク復興のために使われる予定だった資金の多くはどこにいってしまったのか。その答えが出ることはないだろうが、フセインの「H資金」としてまことしやかに語り継がれる可能性はある。

──編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 

ワールド

米国防総省、イランで数週間にわたる地上作戦を準備=

ワールド

日曜●アングル:トランプ氏製造業政策の「光と影」、

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story