コラム

ムかない男の美学

2010年11月17日(水)20時45分

 エジプトのカイロ郊外にあるサッカラ遺跡。紀元前2300年頃に彫られたとされる古代エジプトのレリーフには、神官が少年に割礼を行なっている様子が描かれている。割礼とはペニスの先端の包皮を切除する習慣のことで、人類史上もっとも古い外科手術ともいわれている。

 古代から行なわれてきた割礼が今、あらためて注目されている。というのも、アメリカ・カリフォルニア州を中心に割礼を禁止しようとする動きがあるのだ。

 カリフォルニア州では、11月に行なわれた選挙で大麻の合法化をめぐる住民投票が行なわれたばかり(大麻合法化は否決)。そして次の住民投票に向け、割礼の是非を問う法案を作成しようとする動きがにわかに騒がれている。

 割礼の何が問題なのか。割礼は子供のうちに行なわれるのが普通で、本人の意志と無関係に行われる。つまり、それは個人の人権侵害じゃないかというのだ。さらに割礼反対の活動を行なうNGO団体によれば、切除する包皮の先には神経が集中しており、割礼すると性行為での快感度が低下するという。

 また見た目がスタイリッシュという意見もある。専用の器具を装着してペニスの先端を太股まで引っ張り固定し、何年もかけてジンワリと皮を引き伸ばす。割礼されたペニスを元の状態に戻すために、その方法を解説するサイトまで存在するのだ。

 WHO(世界保健機関)によれば、世界中で約30%の男性が割礼し、その3分の2はイスラム教徒。イスラム教徒とユダヤ教徒は割礼を行なうことで知られる。例えばナチス・ドイツではユダヤ人を探すのに割礼しているかどうか調べたり、パキスタンのテロ組織はライバルで隣国のインド(ヒンズー教徒が大多数)からのスパイがいないかどうか調べるのに割礼されているかどうかを見るという話もある。

 宗教以外の理由で割礼をもっとも多く行っているのはアメリカだ。アメリカではもともと、包皮があると衛生上よくないという理由で第2次大戦後に広まった。60年代には新生児の90%に行われたが、近年では56%にまで減少している。米疫病対策予防センターの調査では、09年に割礼を行なったアメリカ人は32%。06年から56%も減少しているという。

 古代から行なわれてきた割礼が犯罪になる日も近い!?

――編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story