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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
『ザ・パシフィック』が描く日本人
米HBOが制作したテレビドラマシリーズ『ザ・パシフィック』の日本での放送がWOWOWで始まった。製作総指揮として第二次大戦のヨーロッパ戦線を描いた『バンド・オブ・ブラザース』を制作したトム・ハンクス、スティーブン・スピルバーグが今回テーマに選んだのは太平洋の戦い。第1回放送分が7月25日午後9時までインターネットで無料公開されている。
総制作費200億円を投じた力作だけあって、『ザ・パシフィック』は今年のエミー賞に最多24部門でノミネートされている。第1回を見て、確かにディテールにこだわった力作の名に違わない作品だと思った。だが、どうしてもテレビドラマとして素直には楽しめなかった。
それは米兵たちが機関銃で「七面鳥撃ちの七面鳥」のように撃ち殺す相手が自分の祖父であり、曾祖父である日本人だからだ。
ガダルカナル島の戦いを描いた第1回を見る限り、スピルバーグやハンクスに日本人を「眼のつり上がったサル」としてステレオタイプに描くつもりはないことははっきりしている。逆に主人公の海兵隊員の1人が、戦死した日本兵の背嚢の中から子供がつくっただろう布人形を取り出すシーンでは、日本兵も1人の人間だったと描こうとする意図が感じられた。
筆者は以前、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』を見たとき、手榴弾で内臓や頭の半分を吹き飛ばす日本兵の自決シーンに気分が悪くなってDVDを止めたことがある。それには単に描写がリアル過ぎるという理由だけではなく、「日本人だから」という感情も入っていたと思う(二宮和也を除く日本人俳優たちのセリフの読みがヘンで耐えられなかったというのもあったが)。
有料かつ放送衛星を経由する限定的なものとはいえ、『ザ・パシフィック』が日本のテレビで放送される意味は他国とは明らかに違う。観客も場所も限定される映画館での上映とも違う。
恐らく日本人が相当客観的に太平洋戦争を捉えることができるようになった、言い換えれば「民族の心の傷」がかなりの程度まで癒えたことが背景にある。終戦から65年が経ち、現実に苦痛や悲しみを感じた人たちは徐々にこの世を去りつつある。
民族の悲劇を忘れるべきではないという感情は正しい。いつまでも過去に拘泥すべきではないという主張ももっともだ。どちらが正しいかは分からない。ただ目前のテレビの戦闘シーンと、祖父や曾祖父が感じただろう苦痛を結びつける想像力を失うのは、1人の人間として怖い気がする。
このあと『ザ・パシフィック』が描くのは、ペリリュー島、硫黄島、沖縄といういずれも日本軍が水際での玉砕戦法をとらず、米軍を陣地の奥深くまで誘い込んで「大量出血」を強いた戦いだ。視聴者を待っているのは玉砕よりもっと凄惨な戦闘シーンだろう。
「スタート割」中らしいが、WOWOWに契約を申し込むべきか、まだ迷っている。
――編集部・長岡義博
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