コラム

これが上海万博の真実だ!

2010年05月23日(日)07時16分

 5月1日の開幕日には、中国館に入ろうとする人たちがチケットをめぐってケンカを始めるほど「盛況」だった上海万博だが、その後の入場者数は1日20万人を確保するのがやっと。目標の7000万人達成はかなり難しそうだ。

 過去最多となる246の国・地域と国際機関が参加した上海万博に閑古鳥が鳴いているのはなぜか。今月12日に現地を訪れた本サイトコラム『Tokyo Eye』の筆者で歌舞伎町案内人の李小牧氏に聞いた。

     *

――現地の様子は?

李:まず下の写真を見てほしいが、5月12日の夕方の時点でこんなにガラガラ(笑)。なかなか入れないと言われた中国館にも30分で入れた。

RIMG0105.JPG
ⓒLee Xiaomu

 中国館の第1展示ゾーンは12階建てで、一番上まで上って中国の都市化をテーマにした映画(下の写真)を見た後、下まで展示物を見ながら歩いて降りる構造になっているのだが、この映画がたいした事ない(笑)。

RIMG0118.jpg
ⓒLee Xiaomu

 第2展示ゾーンではレールの上を走る列車に乗って中国建築の特徴を見学するはずが、列車が故障して(下の写真)修理に1時間かかると言われたので、乗るのを止めてしまった(笑)。

RIMG0157.jpg
ⓒLee Xiaomu

――なぜ盛り上がりに欠けるのだろう。

李:あまりに警備が厳しくて緊張感が強く、お祭り気分になれない。外国人にきちんとしたところを見せなければ、と思うあまり規制が厳しくなり過ぎている。上海市内は車の通行もナンバーで規制されている。

――入場者数が伸び悩んでいる理由は?

李:中国は日本のように庶民層が沖縄や北海道に旅行に行ける国ではない。上海万博に行けるのは富裕層。彼らは国内旅行に行く暇とカネがあれば、海外に行ってしまう。また中国は広いから、東京から日帰りで愛知万博に行くような気楽さで上海万博には行けない。

RIMG0179.jpg
中国館から帰る見学者 ⓒLee Xiaomu

――北京や広東の人が「あくまで上海のイベント」と捉える中国の地域性も影響しているのでは。

李:今、中国のメディアは万博一色で、地域の温度差はそれほどないはず。ただ中国には行列する文化はないので、中国館の前に何時間も並ぶニュース映像を見て、「ああ、これなら家でテレビを見ているほうがいい」と大勢の中国人が感じたかも。でもガラガラというニュースが流れれば、抜け目ない中国人がまた殺到する可能性もある(笑)。

RIMG0197.jpg
中国館の前の万国旗 ⓒLee Xiaomu

     *

 普段なかなか見られない科学技術や外国の物産を実際に見る、というのが万博の本来の趣旨。なのに、上海万博はすっかり中国が自国の国威を発揚する「中国博覧会」と化している。中国人がわざわざ万博に「中国」を見に行かず、家でインターネットやテレビを見ているのは、ある意味ごく自然な姿のように思えるのだが......。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story