コラム

岸田政権が長期政権になる為に必要なこと

2021年10月21日(木)17時30分

自民党議員の中でも意見が分かれている財政政策については、経済をしっかり立て直しそして財政健全化に取り組むという、政策の優先順位は明確になっている。既に自民党総裁選の時にも、岸田氏は、消費増税を10年程度考えないと述べており、かつては財政健全化を重視していた同氏の考えは柔軟になっているとみられる。つまり、現行の方針通りの経済政策(事実上のアベノミクス)を今後徹底すれば、岸田政権は安倍政権同様の成果を果たし来年以降も日本の政治情勢は安定化する、これが筆者が想定している第1のシナリオである。

一方、岸田首相は「人の言う事を聞く」姿勢をアピールしているが、これは金融所得課税などの増税を考える条件や時期について、ご自身には確固たる考えがないとも言えるので、無視できない懸念要因である。この判断の際に、安倍政権以前までに、経済政策を事実上運営してきた経済官僚の考えを採用する展開となれば、経済政策について当事者能力を失っていたかにみえた民主党政権同様に、早期の増税や緊縮財政政策への転換が始まる。そして、経済政策運営の失敗によって岸田政権が短期政権に終わる、これが第2のシナリオである。

つまり、岸田政権にとって重要なのは、2012年末に安倍政権が始めた経済政策運営の徹底できれば進化させられるかどうかである。岸田首相は所得格差の是正を問題にしているが、所得格差を示す相対貧困率やジニ係数は第2次安倍政権下において低下している。経済政策の失敗が招いたデフレと経済停滞によって、雇用環境が不安定な低所得家計が苦境に陥ったことが、日本の所得格差をもたらした大きな要因だったのである。このため、2%インフレ安定を伴う経済正常化を実現する過程で、日本の所得格差が更に縮小する余地があることを岸田首相がしっかり理解するのであれば、第1のシナリオが実現する可能性が高まるだろう。

官邸ブレーンの経済政策に対する姿勢は悪くない

今後、2022年になってからの個々の政策運営によって、上記のシナリオのどちらが実現するかを、徐々に判断できるようになるだろうが、上記の2つのシナリオの生起確率はほぼ5分5分と筆者は現時点で想定している。自民党総裁選挙の時点では、第2のシナリオの可能性がやや高いと筆者は見ていたが、岸田氏の所信表明演説を踏まえると、官邸ブレーンの経済政策に対する姿勢は予想外に悪くない。

更に、拡張的な財政政策を主張する高市早苗氏が政調会長となり、そして従来から経済・安全保障政策に力を入れていた甘利明氏と懇意な自民党政治家が内閣において経済・安全保障を担当する体制になっている。こうした、自民党の情勢をみると、経済成長を重視するマクロ安定化政策を修正する政治的な動きは大きくはならないとみられる。

今月末の総選挙で連立与党が安定多数の議席を保ち、自民党の権力構造が大きく変わらないという前提に立つと 2022年半ばまでは、第1、第2のシナリオのどちらが実現するについて、金融市場の期待は揺れ動くと予想される。こうした状況では、日本株市場のパフォーマンスは、米国株とほぼ同様のリターンしか期待できないだろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATOへの関与に否定的発言 集団防衛

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story