コラム

コロナ対策で戦時に匹敵する財政政策を発動する米国、しかし日本は......

2021年02月25日(木)11時30分

米国と同規模の財政政策が日本でも発動されたように見えるが......

他方、日本でも新型コロナ対策として、2020年4、5月に総額57兆円(GDP約11%)の補正予算が策定された。この補正予算を見ると、米国と同規模の財政政策が日本でも発動されたように見える。実際には、筆者は従来から強調してきたが、補正予算の多くはスムーズに執行されていない。これが、コロナ被害が大きかった米国よりも景気回復が遅れている一因とみられる。

日本では、どの程度財政赤字が増えているか?米国のように毎月財政収支のデータが発表されていないため、自ら試算するしかない。日本銀行の統計によって2020年9月までの財政収支は、ある程度正確に推計できる。20年4月~9月の6ヶ月間で、日本の財政収支赤字は約27兆円増えたと試算され、これはGDP対比約5%に相当する。この財政支出の多くは、米国同様に、家計や中小企業への所得移転として使われている。

2020年10月以降も財政支出が増えているだろうが、特別定額給付金が行き渡った後は財政支出のペースは落ちているとみられる。この予算執行の目詰まりで、医療機関への支援金が行き渡らなかったことが、21年のコロナウイルス第3波の医療崩壊をもたらした大きな要因と筆者は考えている。

なお、12月の追加補正予算における新型コロナ対応の予算措置は、主に余っていた予備費を継続的に支出するという対応に限定された。1月の緊急事態宣言に伴い、飲食店への協力金などに追加の予備費が約1.8兆円支出され、また一部医療体制の拡充策も打ち出された。ただ、これらを含めても、日本の財政赤字は、GDP比約10%の拡大に留まっていると筆者は試算している。

つまり、米国と比べて半分程度の財政赤字拡大で、日本では新型コロナが招く非常時への対応を行っていることになる。新型コロナがもたらす被害が米国より小さいので、この程度の財政政策発動で十分というのが菅政権の判断なのだろう。

日本経済は、結局、米国頼みから脱するのは難しい

日本ではインフレ率が再びゼロ近傍まで低下し、デフレリスクが再び高まっている。米国の規模に近づける格好で、金融財政政策を強化することは検討されてもおかしくない。ただ、先に紹介した米国と同様には、健全な政策議論がほとんど行われていないのが日本の現状である。

なお、筆者自身は、金融財政政策を一体となって経済正常化を実現させる政策対応を強化する余地は、かなり大きいと考えている。日本銀行による長期国債等の購入ペースは、2020年秋口から早くも再び鈍っている。

米国における、戦時対応に匹敵する大規模な財政政策発動によって、2021年以降同国経済の成長率は加速する可能性が高い。この恩恵を受けて、最終的には日本経済も危機から正常化に向かうとの期待は抱ける。ただ、1. 過度に保守的な経済政策運営、2. 新型コロナで如実に表れた政治・行政能力の劣化、によって、今後も経済政策運営が不十分なものにとどまりそうである。日本経済そして株式市場は、結局、米国頼みから脱するのは難しいだろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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