子供を望まない人が増えているが、避妊の男女格差は縮まらない VADIMGUZHVA/ISTOCK
<アメリカで人工妊娠中絶の権利が脅かされるなか、男性ができる避妊法「パイプカット」には、これだけの利点がある>
想像してほしい。ホルモンを使わず、ほぼ100%効果的で、セックスの前に準備にあたふたする必要がなく、忘れることはあり得ない避妊法を――。ただし、条件が1つ。睾丸がなければ駄目だ。
その避妊法とは、もちろんパイプカット(精管切除)のこと。アメリカでは、人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェード」判決が覆されようとしている。妊娠を招く可能性がある人は、誰もがパイプカットを検討すべきときだ。
「間違いなく、もっと多くの男性がこの手術を受けられるはずだ」と、男性の性と生殖のヘルスケアを専門とするワシントン大学のマーラ・ヘヘマン助教(泌尿器学)は言う。
精子の通路である精管の切断手術はとても簡単だ。ヘヘマンはあるパーティーで、友人の夫たちに「自宅の居間でもできると話したら、すごく驚かれた」と言う。患者は手術の際に局所麻酔を受け、術後の回復期にはき心地のいい下着を身に着けるだけでいい。
それなのに避妊法ランキングで、パイプカットは最下位クラスだ。妊娠を防ぐため、大半の人が頼っているのは女性。より正確に言えば、精子でなく卵子を生み出す側だ。
米疾病対策センター(CDC)の調査によれば、15~49歳のアメリカ人女性のうち、最も一般的な避妊法は卵管結紮術(18.1%)。経口避妊薬が14%で、子宮内避妊器具(IUD)・避妊インプラントは10.4%だ。コンドームは8.4%、パイプカットはわずか5.6%だった。
男性がパイプカットに踏み切るのは通常、父親になった後だ。子供のいない若年層ではそれほど一般的でないが、選択肢としてもっと検討すべきではないか。精管を切断しても、再建手術で元に戻せる(とはいえ、妊娠の確率に影響が出る可能性はある)。
さらに、若年男性層では子供を望まない傾向が強くなっている。つまり、パイプカットがより役立つ世代だ。
ピュー・リサーチセンターが昨年発表した調査では、18~49歳の子供がいない人のうち、子供を持つ可能性が「ほぼない」か「全くない」と回答した人の割合は44%。1990~2013年まで、子供を欲しくない人の割合は4~5%にすぎなかったことを考えると、明らかに大きな文化的変革が起きている。