新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?
新疆綿に関しては、スウェーデンのアパレルメーカーH&Mが昨年新疆産の綿花を自社製品に使わないとアナウンスした。それに対して中国でH&Mのコマーシャルに出ている歌手らが抗議して契約を打ち切ったり、H&Mに対する不買運動が起きたりといった騒動になっている。
H&Mが新疆綿を使わなくなったのは、国際的な綿花畑の認証団体であるベター・コットン・イニシアティブ(BCI)が2020年4月に新疆での認証活動を2020-21年期について打ち切ったことが理由となっている。ではBCIがなぜ打ち切ったかというと、「信頼できる確認と認証を行う環境がない」からだという。公式にはそれ以上の説明がないため、この後は想像するしかないが、アメリカからの指弾に対して新疆の側が警戒心を高め、調査員を受け入れなくなった、ということであろうか。
先に挙げたBBCのサドワースのレポートではBCIの担当者へのインタビューを引用しており、その中で担当者は外国の調査員が新疆にアクセスすることが困難になったこと、および新疆の貧困撲滅事業によって農民たちが望まない労働を強いられている疑いを持っていると述べている。
ただ、解せないのは、BCIは人手による綿摘みが行われている南疆の綿花畑のみならず、すでにほとんど機械化された北疆も含めて新疆の綿花畑すべての認証活動をやめてしまったことである。新疆の域内から本人の意思に沿わない形で綿摘みに動員されている懸念を持っているのであれば、そうした綿摘み労働者を受け入れている綿花畑に対する認証を取り消せばいい話であり、綿摘みが機械化されている綿花畑の認証まで中止するのは筋が通らない。BCIが欧米での政治的な空気に迎合したとの疑いを禁じ得ない。
また、2021年3月にはBCIの上海事務所が2度にわたって「我々は2012年以来これまで新疆で一度も強制労働の事例を発見したことはない」との声明を出し、BCIの本部と鋭く対立している。
アパレルメーカーはどう対応すべきか
以上で、新疆の綿花農業における強制労働の存在を主張するアメリカとイギリスの4本のレポートを検討したが、このうち自ら証拠を捕えようとしているのはゼンツだけで、他の3本は他のレポートの受け売りである。となるとゼンツのレポートが強制労働説の大元ということになるが、中国の報道を曲解しただけのレポートが騒ぎの元なのだとすれば驚きである。
私はもちろん新疆の綿花農業における強制労働がないことを立証したと主張するつもりはない。ただ、強制労働があると断定するには証拠が不十分だといいたいだけだ。
BCIが新疆の綿花畑の認証を中止したというのは繊維・アパレル業界の企業にとっては大変悩ましい状況である。新疆産の綿は中国の綿花生産の85%、世界の綿花生産の20%を占めており、これを使わないことは、特に中国で綿製品の生産や販売を行っている企業にとっては容易ではないであろう。
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