人民元安をもたらしたのは当局の操作か、市場の力か?
さて、2008年以来の元安というと、中国が景気回復のために輸出攻勢をかけてくるのではないかという警戒感を巻き起こすかもしれない。だが、現在の1ドル=7元は2008年の頃よりも実質的にはかなり元高になっていることに注意する必要がある。
例えば日本からアメリカに車を輸出するとして、為替レートが10年前は1ドル=150円、いまは1ドル=100円だとしよう。自動車メーカーは「円高になって大変だ」というかもしれないが、本当に大変になったかどうかは、日本とアメリカの物価の変動を考えないと正しい結論は得られない。もし日本の物価は変化がないが、アメリカは物価水準が10年間に3倍になったとすれば、10年前にアメリカで1万ドルだった車は現在は3万ドルになっているはずである。すると、10年前は車1台輸出して売上150万円だったのが、いまは300万円になっており、円高で大変などころか、以前よりもすごく楽に輸出できることになる。
このように為替レートが本当の意味で高くなったのか安くなったのかを判断するためにはレートそのものだけでなく、自国と輸出相手国の物価の変化も考慮に入れないとならない。
こうした考えに基づいて計算されるのが「実質実効為替レート」という数字である。日本の場合は国内の物価はデフレといわれるぐらいずっと安定していた。一方、アメリカや中国など日本の主要な貿易相手国では物価がけっこう上がっている。そのため、2018年の円の対ドル為替レートは110円、2000年の為替レートは108円で、表面上はほとんど同じであるが、実質的にはものすごく円安になっている。2018年の1ドル=110円というのは2000年を基準にすると1ドル=182円に相当するほどの超円安である。現在の企業経営者が「1ドル=110円を超えて円高になったら大変だ」などと言おうものなら、18年前の経営者から「甘えるな」とビンタを食らうことであろう。
一方、中国においては、過去6年ぐらいは国内の物価上昇率の方が輸出相手国の物価上昇率より高いので、実質実効為替レートは上がる傾向にある(図2)。2008年と2019年8月は同じ1ドル=7元だといっても、2019年の1ドル=7元は2008年の1ドル=5.9元に相当するぐらいの元高である。実質的に2008年並みの元安にしようと思ったら、1ドル=8元を超えるぐらいの元安にする必要がある。そこまで下がればアメリカの25%の関税もほぼ相殺できる。日本円の対ドル為替レートが来た道を思えば、その程度の為替変動も十分ありうる。
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