コラム

中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業

2017年01月25日(水)17時20分

 そもそも中国の鉄鋼生産能力が果たしてどの程度過剰なのか、よく検討する必要がある。「一国で世界の生産量の半分も作るなんて作りすぎに決まっている」と思う人が多いだろうが、人口あたりの鉄鋼利用を示す「一人あたり見かけ鉄鋼消費量」(ある国の鉄鋼生産量と鉄鋼輸入量を足したものから鉄鋼輸出量を引いたのが「見かけ鉄鋼消費量」である)を見ると、中国は2015年にちょうど日本やドイツと同じぐらいになったところだ(図1)。他国に比べて極端に鉄鋼を使っているというわけではない。

 図1を見ると、日本も、アメリカも、ドイツも、イギリスも、先進国はおおむね鉄鋼消費量が減少傾向にあることがわかる。つまり、高層ビルや橋梁、鉄道や高速道路などをさかんに建設している段階では鉄鋼消費量が増えるが、そうしたものがおおむね完備した段階では鉄鋼消費量が減る。一方、中国は2001年から2013年まで一直線で一人あたり見かけ鉄鋼消費量が増えている。まさにこの期間、いささか急ぎすぎな感じもあったが中国はシャカリキになってビル、鉄道、高速道路、橋などを建設してきた。

中国はまだ鉄を使う?

 2008年に粗鋼生産量が5億トンを超えたところで中国政府は鉄鋼の生産能力が過剰だと判断し、2009年に作った産業政策では生産能力の拡張を抑え込み、2011年まで粗鋼生産を5億トン程度に抑える方針を決めた。その時点では鉄鋼生産能力が6億6000万トンあったので、どうしたって1億トン以上の生産能力が過剰だ、だからその分は生産設備を廃棄しなければならない、と中国政府は認識していた。

 ところが、結果から見ればこうした情勢判断は誤っていた。中国の鉄鋼消費量は2009年以降も急ピッチで伸びたので、生産もそれに合わせて伸び、2011年の粗鋼生産量は7億トン、13年には8億2200万トンになった。実際に起きたことは生産能力の縮小ではなく拡大だった。2009年の産業政策は大手国有鉄鋼メーカーに業界を集約する方針を打ち出したので、大手は金融支援を受けて生産能力を拡張した。一方、中小の民間メーカーも需要拡大の波に乗って積極的に投資を行った。結局、2015年時点での粗鋼生産量は8億トン、鉄鋼生産能力は12億トンもの規模になった。

graph.gif

 こんどこそ大変深刻な生産能力過剰で、過剰能力の整理は待ったなしだ、と誰しもが思っている。だが、これはそう簡単に判断を下せるほど単純な問題ではない。図1を見ると、日本、ドイツ、アメリカでは一人あたりでみて今の中国よりかなり多くの鉄鋼を消費していた時期があったことがわかる。図1には載せていないが、韓国の一人あたり見かけ鉄鋼消費量は世界トップで、2015年には1114kgだった。これは韓国が自動車や船舶など鉄鋼を使った製品を大量に輸出していることと関係している。つまり、ある国が鋼材を輸出する場合、その鋼材は「見かけ鉄鋼消費」には含まれないが、自動車や船舶などに加工したうえで輸出すると、その生産に投入された鉄鋼はその国で「消費」されたことになる。1990年代前半に日本の一人あたり鉄鋼消費量が650~800kgと多かったのも、同じ理由で説明できるだろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ「サイバーキャブ」、初期生産極めて遅いペース

ビジネス

中国万科、債券保有者が一部返済の1年延期を承認

ビジネス

アブダビ政府系ファンド、AIとロボット工学に投資機

ワールド

イランとの核査察巡る対立、「永遠に続けられず」=I
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生…
  • 5
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    トランプが「NATOのアメリカ離れ」を加速させている…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story