中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業
そもそも中国の鉄鋼生産能力が果たしてどの程度過剰なのか、よく検討する必要がある。「一国で世界の生産量の半分も作るなんて作りすぎに決まっている」と思う人が多いだろうが、人口あたりの鉄鋼利用を示す「一人あたり見かけ鉄鋼消費量」(ある国の鉄鋼生産量と鉄鋼輸入量を足したものから鉄鋼輸出量を引いたのが「見かけ鉄鋼消費量」である)を見ると、中国は2015年にちょうど日本やドイツと同じぐらいになったところだ(図1)。他国に比べて極端に鉄鋼を使っているというわけではない。
図1を見ると、日本も、アメリカも、ドイツも、イギリスも、先進国はおおむね鉄鋼消費量が減少傾向にあることがわかる。つまり、高層ビルや橋梁、鉄道や高速道路などをさかんに建設している段階では鉄鋼消費量が増えるが、そうしたものがおおむね完備した段階では鉄鋼消費量が減る。一方、中国は2001年から2013年まで一直線で一人あたり見かけ鉄鋼消費量が増えている。まさにこの期間、いささか急ぎすぎな感じもあったが中国はシャカリキになってビル、鉄道、高速道路、橋などを建設してきた。
中国はまだ鉄を使う?
2008年に粗鋼生産量が5億トンを超えたところで中国政府は鉄鋼の生産能力が過剰だと判断し、2009年に作った産業政策では生産能力の拡張を抑え込み、2011年まで粗鋼生産を5億トン程度に抑える方針を決めた。その時点では鉄鋼生産能力が6億6000万トンあったので、どうしたって1億トン以上の生産能力が過剰だ、だからその分は生産設備を廃棄しなければならない、と中国政府は認識していた。
ところが、結果から見ればこうした情勢判断は誤っていた。中国の鉄鋼消費量は2009年以降も急ピッチで伸びたので、生産もそれに合わせて伸び、2011年の粗鋼生産量は7億トン、13年には8億2200万トンになった。実際に起きたことは生産能力の縮小ではなく拡大だった。2009年の産業政策は大手国有鉄鋼メーカーに業界を集約する方針を打ち出したので、大手は金融支援を受けて生産能力を拡張した。一方、中小の民間メーカーも需要拡大の波に乗って積極的に投資を行った。結局、2015年時点での粗鋼生産量は8億トン、鉄鋼生産能力は12億トンもの規模になった。
こんどこそ大変深刻な生産能力過剰で、過剰能力の整理は待ったなしだ、と誰しもが思っている。だが、これはそう簡単に判断を下せるほど単純な問題ではない。図1を見ると、日本、ドイツ、アメリカでは一人あたりでみて今の中国よりかなり多くの鉄鋼を消費していた時期があったことがわかる。図1には載せていないが、韓国の一人あたり見かけ鉄鋼消費量は世界トップで、2015年には1114kgだった。これは韓国が自動車や船舶など鉄鋼を使った製品を大量に輸出していることと関係している。つまり、ある国が鋼材を輸出する場合、その鋼材は「見かけ鉄鋼消費」には含まれないが、自動車や船舶などに加工したうえで輸出すると、その生産に投入された鉄鋼はその国で「消費」されたことになる。1990年代前半に日本の一人あたり鉄鋼消費量が650~800kgと多かったのも、同じ理由で説明できるだろう。
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