最新記事

メルマガ限定ページ

クモ恐怖症はガマンせずに治す

2017年05月17日(水)18時30分

これまでクモ恐怖症には暴露療法が用いられてきたが ANTONIO ALBA-EYEEM/GETTY IMAGES

<従来療法より効果がある画期的アプローチが登場>

クモの写真や絵を怖がり、クモの悪夢にうなされる──そんな子供は大人になってもクモに怯える。だが恐怖症は「制御」によって克服できそうだ。

英マンチェスター大学の研究チームは、クモ恐怖症の治療に知覚制御理論(PCT)を利用。恐れに対するアプローチを患者自らに制御させるこの手法は、従来の心理学的治療法よりも効果が高いことが判明したと、専門誌で先日発表した。

心理学者は恐怖症治療に当たって、暴露療法を用いるのが一般的。恐怖を感じる対象と接することに徐々に慣れていき、恐怖心の解消を目指す方法だ。

マンチェスター大学のウォレン・マンセル講師(臨床心理学)らは、こうした療法とPCTのどちらがクモ恐怖症の緩和に役立つかを探るべく、患者96人を対象に研究を実施した。被験者にクモを避ける理由とクモに接近する理由をリストアップさせ、コンピューター画面上のバーチャルなクモを遠ざけたり引き寄せたりしてもらった。

画面上のクモとの距離を自らコントロールする体験をした結果、患者は本物のクモに以前よりも近づけるようになったという。さらに実験終了から約2週間後には、クモを避けたい気持ちが薄らいでいったと、被験者は報告している。

「恐怖症や不安はセラピストの治療なしでも克服できるかもしれない」と、マンセルは言う。患者が自身の動機を意識することで恐怖に立ち向かうという選択もできるようになると、マンセルらは考えている。

過去の研究では、クモの画像を潜在意識レベルで認識しただけで、患者の脳内では恐怖反応に関わる領域が強く活性化することが分かっている。ただし本人は怖いとは感じていない。瞬間的に見た場合、恐怖心を抑える脳領域も活性化するからだ。

一方、クモだとはっきり認識した場合には、恐怖心を抑える脳領域の活動は不活発になり、恐れを感じる。ならば、恐怖を感じる対象に向き合っていることを意識しなければ、恐れによりよく対処できるかもしれない。

マンセルが認めるように、PCTに永続的効果があるかを確かめるには、さらなる研究が必要だ。だが取りあえず、怖いクモに無理やり向き合う必要はないのかもしれない。

リゼット・ボレリ

[2017年5月16日号掲載]

MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中