コラム

「最も高度な政治ゲーム」自民党総裁選のカギを握るあの人物

2021年09月18日(土)11時44分

「最も高度な政治ゲーム」の勝者は? Kimimasa Mayama/Pool--REUTERS

<なぜ野田聖子氏が推薦人20人を集めることができたのか? 野田氏に自派から8人の推薦人を出した二階氏の真意は? 河野氏は1回目の投票で過半数を取れるのか? 「最も高度な政治ゲーム」と呼ばれ、智略と嫉妬渦巻く自民党総裁選の展開を考える>

自民党総裁選が17日に告示され、河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の4氏が立候補を届け出た。29日の投開票に向けて13日間の総裁選挙がスタートした。

石破茂元幹事長が出馬しなかったことは想定の範囲内だったという人が多いだろうが、それよりも注目を集めたのが野田幹事長代行(無派閥)だ。これまでに過去3回の総裁選で出馬の意欲を表明してきたが、無派閥ゆえに推薦人を20人集めるハードルが高く断念せざるを得なかった。今回は土壇場で立候補にこぎつけたが、その推薦人に二階派(志帥会)所属議員8名が名を連ねていることにちょっとした驚きが走っている。

自民党総裁選は、最初の投票で過半数を得た候補者がいなかった場合、上位2位の候補者による決選投票が行われる。選挙権を有する全国の党員・党友数は110万4336人。1回目の投票では国会議員票383票と同数になるようにドント方式で配分されるが、決選投票では都道府県連票47票に圧縮され、国会議員票の重みが格段に増す。

そのため、各種の世論調査で人気を誇る河野行革相(麻生派=志公会)が勝利するためには、全国の党員党友票の比重が高い1回目の投票で過半数を獲得して勝負を決めることが肝要と言われてきた。

これに対して岸田前政調会長(岸田派=宏池会)と高市前総務相(無派閥)は、1回目の河野候補による過半数獲得を阻止して決選投票に持ち込み、2位、3位連合による逆転勝利を目指す戦略が有効だ。

そこに割って入る形となった野田氏は、党内における選択的夫婦別姓導入の議論を主導し、同性婚や女系天皇を容認していることから「リベラル」なイメージが強い。したがって野田氏の立候補は、選択的夫婦別姓や同性婚を同じく認めてリベラルなイメージのある(ただし今回の共同記者会見では女系天皇について言及を回避した)河野氏の「票を食う」のではないかという見立てが一般的だ。そうだとした場合、野田氏の立候補によって河野氏の1回目過半数獲得が難しくなり、それは結局の所、岸田文雄氏を有利にするのではないか――。

岸田氏といえば、いち早く立候補を表明した8月26日の会見で「党役員任期を最長3年までにすることで権力の集中と惰性を防ぐ」と明言。二階幹事長交代論に踏み込んで菅首相=二階幹事長体制の瓦解を招くきっかけを作ったことは記憶に新しい。二階幹事長はこの発言に対して、名指しで岸田氏に不快感を表明している。

その二階幹事長が率いる二階派から8名の議員が野田聖子候補の推薦人に名を連ねたことに驚きが走っているのは、こうした背景があるからだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story