佐渡金山の世界遺産登録問題、韓国も日本も的外れ
とはいえ、それは本来、江戸時代における世界史的重要性を中心に据えた今回の佐渡金山の世界遺産登録に向けての動きとは別の話の筈である。何故なら、佐渡鉱山において見られた朝鮮半島からの戦時労働者を巡る状況は、ここにのみ固有のものではなく、当時の日本の戦時動員システムそのものに由来する問題だからである。にも拘わらず、今回韓国政府がこの異なる問題である両者を結び付けようとし、これに対して日本側もまた、これを「歴史戦」の一環として応戦する。それは韓国政府のみならず、日本政府もまた、この問題を自ら植民地支配に関わる問題に結び付けて議論しようとしている事を意味している。
そして、問題がそのような展開になった場合、不利になる可能性が大きいのは日本側だ。現在の国際社会において植民地支配は肯定的に考えられておらず、第二次世界大戦を巡る問題について、嘗てドイツやイタリアと共に「枢軸国」側に属していた日本の行為は好意的には捉えられていない。既に述べたように、戦時における鉱山での労働状況が好ましいものでなかった事は明らかであり、それを何かしらの「美しい話」へと転化させるのは無理がある。その結果は、「明治日本の産業革命遺産」を巡る問題に関する、昨年7月のユネスコ世界遺産委員会における日本政府の一連の措置に対する「遺憾」を示す決議に明らかだろう。
焦点は「顕著な普遍的価値」
そもそも世界遺産とは、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つものの事であり、だからこそ文化遺産においてその価値は、各国の歴史ではなく、世界史に直接結びつけられるべきものでなければならない。言い換えるなら、世界遺産の登録を巡る問題を、韓国や日本といった、特定の国家や民族の「名誉と誇り」に関わる問題として位置づけるのは、ピント外れなのである。だからこそ、この問題を議論するに当たり、特定の国家や民族に関わる問題として語れば語る程、国際社会での説得力は失われる事になる。
重要なのは、国家や民族の名の下に争う事ではなく、佐渡金山等、個々の歴史遺産が人類全体に対して有する「顕著な普遍的価値」を粛々と訴える事である。そしてそれこそが、歴史に向かい合う事であり、何よりも先人と、長年世界遺産登録に尽力してきた佐渡や新潟県の人々に報いる事だと思うのだが、違うだろうか。
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