コラム

韓国のG7参加を嫌う日本と冷静な韓国との差異

2020年06月05日(金)08時05分

だからこそ、この様にして形成されたG7の枠組みは、時に、国際連合の安全保障理事会常任理事国であるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国が「安全保障分野における強国の集まり」であるのと類似した、「経済分野における強国の集まり」としてみなされることになった。「ライブラリーグループ」を構成したアメリカ、日本、ドイツ、イギリスそしてフランスという顔ぶれは、第二次大戦以前の世界における「列強」のそれと同じであり、その直下に「準列強」とでもいうべきイタリアが位置する構造も変わらなかった。そしてその事は、G7の枠組みが形成された1970年代には、依然、第二次大戦以前の「列強」が支配した時代と同じ国際社会の構造が大きく是正されずに維持されていた事を示していた。

屈折した日本の思い

だからこそ、G7の一員であることは時にその実態以上に大きな意味を持つ事となった。そして、その事が最も典型的に表れたのが日本においてであった。振り返るなら、第1回サミットは、日本の首脳が直接参加したはじめての「主要国会議」であった。第二次大戦中のカイロやヤルタ、ポツダムは勿論、戦前のベルサイユやミュンヘン、更には戦後のジュネーブと言った「列強」の「巨頭会議」は、当時の「国際政治」の中心であった大西洋の裏側に位置する日本にとっては、遥かに遠い存在であったからである。だからこそこの会議への出席は、前年にはじめて実現したフォードによるアメリカ大統領としての初の来日や、同じ年の5月に行われたエリザベス二世のイギリス元首としての初の日本訪問と並んで、日本が、戦後30年を経て、再び、そして今度こそ本格的な「列強」の一員となった事を示す象徴的意味を持っていた。だからこそ、日本ではこの会議を、本来は存在しない「主要先進国」という冠をつけて呼び、極めて重要なイベントして扱う事になったのである。そしてそこには、西洋諸国への開国以来続く、日本人の「列強」への屈折した、強い思いが表れている、といっても言い過ぎにはならないに違いない。

「列強」に対して屈折した、強い思いを有しているのは韓国も同様であった。何故なら韓国においては、G7を構成したかつての「列強」と彼らによる「談合」こそが、韓国を植民地へと転落させる事となったものと見做されて来たからである。1905年、日露戦争終結の為に結ばれたポーツマス条約は、日ロ両国間の調停をアメリカが行う事によって実現したものであり、背後には日本の同盟国であったイギリスと、ロシアの同盟国であったフランスの支持が存在した。即ち、この当時の諸「列強」による談合で、朝鮮半島における日本の「政事上、軍事上及經濟上ノ卓絶ナル利益」が認められた事で、韓国は日本の植民地支配へと導かれていくこととなった。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story