コラム

ISが石油価格に与える影響─ 輸出ルートを潰した後で

2015年12月17日(木)16時10分

IS製ガソリン、需給に影響?

 こうした状況で、石油価格はどのように動くのか。今年12月16日時点で、原油価格は1バレル38ドル前後と直近の安値圏を推移している。14年夏ごろ110ドル前後だったが、シェールガスの増産、世界的な景気の減速の影響で需給が緩み、下落が続いた。

 ISの石油生産量は、昨年は日産10万バレル。今年は半減程度と推計されている。世界最大の生産国であるのサウジの生産量が日産1152万バレル(13年)であることから比べるとわずかだが、それでも継続的に市場に流通すれば需給に影響を与える量とされる。

 ある石油アナリストは「欧州全域でガソリンのだぶつきが13年頃から指摘されている。東欧で過剰感があり、それが西欧に波及して需給を緩めた。はっきり分からないものの、ISの石油輸出が影響している可能性がある」と指摘した。どの国でも、政府は生活必需品のガソリンなどの石油商品に税金をかける。税がなく安くなる非合法のISの石油が使われたのかもしれない。

ISの存在が「売り」材料に

 今の状況では原油市場で、目立つ買い材料は有志連合のISの石油輸出ルートの攻撃ぐらいしかない。石油相場はさまざまな要因で動くが、長期的には需給が影響を及ぼす。12月に開催されたOPEC(石油輸出国機構)総会では、減産は打ち出されず、ロシアなどの非OPEC諸国も一定量の生産を続けている。

 産油国は石油に国の収入を依存しているため、先安の可能性を増やしても石油を売り続けている。そして需要は増えず世界各国の石油の在庫は過去最高水準になっている。相場格言で「有事に商品は買い」とされるが、今回は、IS空爆激化は「原油市場では現時点では大きな材料にならなかった」(同アナリスト)という状況だ。
 
 中東諸国とロシアは対ISで、サウジは隣国イエメンでの紛争を抱えている。「産油国は現金を確保したいのだろう。その点でISは意外にも、供給を増やす売り材料の原因をつくっている」と、同アナリストは話していた。石油からの収入はサウジの国家収入の9割、ロシアの6割を占める。

 ISという異常な集団を解体し平和と安全を取り戻すことは、世界の人々の共通の思いだ。しかし表面で伝えられる政治、軍事の側面だけではなく、経済、エネルギーともIS問題は絡み、買いだけではなく、売りの材料にもなる。その動向に、注意を向け続ける必要がある。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story