コラム

日本が核武装? 世界が警戒するプルトニウム問題

2015年11月24日(火)16時30分

増えてしまう日本のプルトニウム

 ところが、この六ヶ所村の再処理工場が稼働し始めると、年数トンのプルトニウムが抽出されてしまう。それを減らすめどが立っていない。国は、MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合燃料)として既存の原発でプルトニウムを使う予定だ。またMOX燃料を専門に使うJパワーの大間原発(青森県大間町)が、国の支援を一部受けて建設中だ。しかし、これらの手段を使ったとしても最大限でプルトニウムを年6トン前後しか減らせないという。今ある48トンのプルトニウムはなかなか減らせない。

 筆者は六ヶ所村の核燃料再処理工場のほぼ完成した巨大な工場を見て、これを動かさないという選択肢はありえないと、思った。この施設をつぶすと、原燃、また支援者の各電力会社に巨額の負担がのしかかり、結局、金銭的な損害が増えてしまう。

 核燃料サイクルをめぐる問題で、対外関係、費用、実効性などの論点すべてを、即座に満足させる答えは、今のところ見当たらない。

外交カード「プルトニウム」の危険な発想

 自民党のエネルギー政策に詳しいある国会議員に、核燃料サイクルの行く末を、聞いたことがある。「六ヶ所再処理工場はできてしまった以上、稼働するべきです。そして情報を公開して核武装の野心はないと世界に示し、プルトニウムを使う高速炉研究を進め、軽水炉でMOX燃料を使って、常識的な先延ばし政策しかないでしょう」と、困っていた。

 そして気になることを言った。「現時点で核武装を本気で考える人は自民党内にはなく、政界にも、石原慎太郎さんなど限られた人しかいません。しかし私は反対ですが、本音では『プルトニウムを一定量持ち続け、将来の外交カードとして残しておきたい』という考えを持つ政治家は党内にいるようです。国防の観点から、将来、自衛のための核兵器保有に動ける選択肢を残すということです」。

 日本の核武装論は、中国からの安全保障上の脅威が高まる中で、「力には力で」という外交論の上ではありえる考えかもしれない。しかし、原子力の平和利用を誓い、唯一の被爆国である日本の核兵器廃絶の目標に反する。その議論は国際的な懸念も深めてしまう。

 筆者は、核燃料サイクルとプルトニウム問題について、国民が関心を向け議論をするべきであると考えている。重要な問題なのに、日常から離れすぎているためか、それほど関心が深まらない。そしてプルトニウムでは、MOX燃料として既存の原発で使うことを前提に、その削減計画を早急につくることが必要だ。

 「李下に冠をたださず」とことわざにいう。日本がこのままでは核兵器の保有の問題で、国際的に「痛くもない腹を探られかねない」のだ。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド鉄道爆破、関与の2人はロシア情報機関と協

ワールド

米、極端な寒波襲来なら電力不足に陥る恐れ データセ

ビジネス

英金利、「かなり早期に」中立水準に下げるべき=ディ

ビジネス

米国株式市場=S&P4日続落、割高感を警戒 エヌビ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story