コラム

原発は本当に安全になったのか――規制行政への疑問

2015年09月11日(金)17時10分


膨大な規制は責任と権限があいまい

 原子力規制委員会は2012年9月に発足した。そして約180もの法改正、政令、省令、規則の改正を行った。総称「新規制基準」と呼ばれ、東京電力福島第1原発事故の反省に立って、従来の規定になかった重大事故や天災への対応などの規制も整備された。早急に法制度を作った努力には敬意を払う。

 ところが煩雑で難解な法律を読み解くと内容はあいまいだ。事業者が対策を「どこまでやるか」という範囲が明示されず、審査の判定権限だけは規制委が持ち、行政の暴走をチェックする仕組みがない。

 審査会合の映像はネット公開されているが、規制委側は安全対策を事業者に「どこまでやれ」と明示しない。原発を動かせば、電力会社は燃料費を減らせ、安定した電源を確保できるため、早く稼働させたい電力会社は過剰対策を自ら提案する。そうすると規制委は認める。「自発的に事業者がやった」という形にすれば、問題が起こっても責任が行政側でなく、事業者のものになるためか。

 こうした規制行政には問題がある。事業者は書類作成、さらに過剰設備の設置、建設にエネルギーを割きすぎて、何が危険か各原発でリスクを洗い出し、事業者が改善を続ける形になっていないのだ。

 ある安全管理の研究者は「事故リスクは新規制で大きく減っていない。逆に次の事故の原因になるかもしれない」と警告した。原子力事業者の行うべきことが増えすぎて、管理が行き届かなくなるためだ。そして「ゴテゴテプラント」で、緊急時の対応が混乱する可能性さえある。

重要度、確率を使った規制の必要

 「過剰に安全設備をつける」「リスクゼロを求める」という規制委の取り組みは一見正しく見える。そして「もっと設備をつけろ」と訴える原発の批判者は多い。

 しかし、工業プラントで設備を無統制につける安全対策は、「やってはいけない」ことだという原子力や機械工学の専門家もいる。構造が複雑になり安全性は必ずしも高まらず、一つのリスクを減らす行為が別のリスクを発生させる。また「想定外」は必ず発生するものだ。

 そして工事には、コストと時間がかかる。それを負担するのは事業者だ。結局、消費者が電力料金の形で、それを支払うことになる。

 工業プラントの安全対策では、リスクを洗い出し、起こる問題の確率を分析し、重要度に応じて対策の差をつけるのが一般的だ。「確率論的リスク評価(PRA: Probabilistic Risk Assessment)」と呼ばれる手法だ。原子力の安全対策、規制政策でも、大半の国が取り入れている。

 しかし日本の規制では福島原発事故前も現在も、PRAをやると言っているものの実行していない。リスクの大小にかかわらず一つ一つの事象ごとに、最大限の対策を事業者に行わせる。「ゴテゴテと設備をつける」「事業者と対立する」という独特の規制だ。ある技術者は「日本の原子力規制は『ガラパゴス』状態で孤立している。世界の原子力研究者はつながっており、実情を知った世界の研究者の間では、日本の規制当局の能力に懸念が広がっている」と嘆いた。

 現在の日本の原子力規制行政にはこうした問題がある。ところがメディアも社会も、原子力の賛成、反対の意見表明ばかりに熱心で、議論すべきこの論点を語り合っていない。

 福島原発事故を経験した多くの国民の考えは「原発は使いたくない。けれどもいきなりゼロにはできないので、安全に使ってほしい」というものだろう。今の原子力規制行政は、そうした願いに対応した形にならず、他国に比べても上手とはいえない。
 原子力の安全は、大丈夫なのだろうか。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

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