アングル:戦火でも消えぬ「創作の灯」、レバノンの芸術家が格闘
11月12日、イスラエルがレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラに激しい攻撃を加える中、レバノンのアーティスト、チャルベル・サミュエル・アオウンさん(45)は芸術の灯を絶やすまいと日々格闘している。写真は、レバノン・ドバイエでチャリティーイベントを行う歌手兼音楽家のジョイ・ファイアドさん。9日撮影(2024年 ロイター/Emilie Madi)
Emilie Madi Riham Alkousaa
[ベイルート 12日 ロイター] - イスラエルがレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラに激しい攻撃を加える中、レバノンのアーティスト、チャルベル・サミュエル・アオウンさん(45)は芸術の灯を絶やすまいと日々格闘している。
「こんな危機の中でも芸術にはまだ居場所があるだろうか」と自問自答するアオウンさん。さまざまな素材や媒体を組み合わせた「ミクストメディア」と呼ばれる美術品を創作する画家兼彫刻家だ。
レバノンは歴史的に、アラブ世界の芸術シーンで中心的な役割を果たしてきた。ビジュアルアート、音楽、演劇の拠点であり、伝統芸術と現代の芸術を融合させた作品を生み出してきた。
レバノンの芸術家らは今、イスラエルによる攻撃で感じたフラストレーションと絶望のはけ口として作品を制作している。攻撃は3200人を超える死者を出し、その大半が今年9月以降に亡くなった。
アオウンさんの作品には、度重なる危機がそのまま表れている。2013年にはレバノンにあるシリア人難民キャンプでがれきを集め、レイヤーを施した一連の絵画を創作し始めた。その後は他の作品形態へと移った。
そして今は戦争による闇と絶望、そしてがれきの光景が、がれきを使った創作活動への意欲をよみがえらせてくれたとアオウンさんは言う。レバノン南部、東部、首都ベイルート南部の郊外には、イスラエルの激しい攻撃によるがれきが残っている。
「何もかもやめてしまうか、それとも今なお意味を持つ少しの物で創作を続けるかだ」
アオウンさんが計画していた2つの展覧会は戦争で中止された。かつては作品の収入で暮らしていたが、今は所有する蜂の巣から採った蜂蜜の販売収入にも頼っている。蜂の巣は元々、「みつろう」から美術品を作るためにこしらえたが「美術品市場ではもう食べていけない」と嘆く。
ベイルート中の画廊がここ数カ月で閉鎖された。画廊オーナーは、この時節に美術品の買い手はいないと言う。レバノンの有名な現代美術館であるスルソーク博物館は、収蔵品を地下倉庫に移した。
レバノン人の歌手兼音楽家のジョイ・ファイアドさん(36)は、戦争によって精神的な打撃を受け、何カ月も演奏するのが難しかった。「創意が抑圧され、自分が閉ざされてしまったかのようだった。他者にも自分自身にも、何かを与えることができなかった」と振り返る。
ファイアドさんは演奏活動の代わりに作曲にエネルギーを注いだ。新曲の一節はこうだ。「踏みにじられた人々 言葉も封じられた 彼らの武器によって それを血であがなっている」
ファイアドさんは最近、演奏活動を再開し、ベイルート北部で開かれるチャリティーイベントで難民の子らに歌を歌っている。
「歌うと空気が変わる。つらい時期を過ごしてきた子らが楽しんでいる」とファイアドさん。爆撃の音に慣れてしまった子らには、音楽の楽しみはひとしおだと語った。