ニュース速報
ワールド

アングル:戦火でも消えぬ「創作の灯」、レバノンの芸術家が格闘

2024年11月17日(日)07時57分

 11月12日、イスラエルがレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラに激しい攻撃を加える中、レバノンのアーティスト、チャルベル・サミュエル・アオウンさん(45)は芸術の灯を絶やすまいと日々格闘している。写真は、レバノン・ドバイエでチャリティーイベントを行う歌手兼音楽家のジョイ・ファイアドさん。9日撮影(2024年 ロイター/Emilie Madi)

Emilie Madi Riham Alkousaa

[ベイルート 12日 ロイター] - イスラエルがレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラに激しい攻撃を加える中、レバノンのアーティスト、チャルベル・サミュエル・アオウンさん(45)は芸術の灯を絶やすまいと日々格闘している。

「こんな危機の中でも芸術にはまだ居場所があるだろうか」と自問自答するアオウンさん。さまざまな素材や媒体を組み合わせた「ミクストメディア」と呼ばれる美術品を創作する画家兼彫刻家だ。

レバノンは歴史的に、アラブ世界の芸術シーンで中心的な役割を果たしてきた。ビジュアルアート、音楽、演劇の拠点であり、伝統芸術と現代の芸術を融合させた作品を生み出してきた。

レバノンの芸術家らは今、イスラエルによる攻撃で感じたフラストレーションと絶望のはけ口として作品を制作している。攻撃は3200人を超える死者を出し、その大半が今年9月以降に亡くなった。

アオウンさんの作品には、度重なる危機がそのまま表れている。2013年にはレバノンにあるシリア人難民キャンプでがれきを集め、レイヤーを施した一連の絵画を創作し始めた。その後は他の作品形態へと移った。

そして今は戦争による闇と絶望、そしてがれきの光景が、がれきを使った創作活動への意欲をよみがえらせてくれたとアオウンさんは言う。レバノン南部、東部、首都ベイルート南部の郊外には、イスラエルの激しい攻撃によるがれきが残っている。

「何もかもやめてしまうか、それとも今なお意味を持つ少しの物で創作を続けるかだ」

アオウンさんが計画していた2つの展覧会は戦争で中止された。かつては作品の収入で暮らしていたが、今は所有する蜂の巣から採った蜂蜜の販売収入にも頼っている。蜂の巣は元々、「みつろう」から美術品を作るためにこしらえたが「美術品市場ではもう食べていけない」と嘆く。

ベイルート中の画廊がここ数カ月で閉鎖された。画廊オーナーは、この時節に美術品の買い手はいないと言う。レバノンの有名な現代美術館であるスルソーク博物館は、収蔵品を地下倉庫に移した。

レバノン人の歌手兼音楽家のジョイ・ファイアドさん(36)は、戦争によって精神的な打撃を受け、何カ月も演奏するのが難しかった。「創意が抑圧され、自分が閉ざされてしまったかのようだった。他者にも自分自身にも、何かを与えることができなかった」と振り返る。

ファイアドさんは演奏活動の代わりに作曲にエネルギーを注いだ。新曲の一節はこうだ。「踏みにじられた人々 言葉も封じられた 彼らの武器によって それを血であがなっている」

ファイアドさんは最近、演奏活動を再開し、ベイルート北部で開かれるチャリティーイベントで難民の子らに歌を歌っている。

「歌うと空気が変わる。つらい時期を過ごしてきた子らが楽しんでいる」とファイアドさん。爆撃の音に慣れてしまった子らには、音楽の楽しみはひとしおだと語った。 

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフ

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズへ追加出資で最終調整=

ワールド

EU、ロシア産LNGの輸入禁止前倒し案を協議

ワールド

米最高裁、トランプ関税巡る訴訟で11月5日に口頭弁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中