ニュース速報
ワールド

アングル:プロサーファーの夢を追うパキスタンの若者

2024年11月03日(日)08時04分

10月31日、アティク・ウル・レマンさん(写真)は、パキスタン初のプロサーファーになるという夢を追いかけている。カラチのタートル・ビーチで9月撮影(2024年 ロイター/Insiya Syed)

[カラチ(パキスタン南部) 31日 ロイター] - アティク・ウル・レマンさん(21)は、パキスタン初のプロサーファーになるという夢を追いかけている。息子の将来を憂う父親の心配や、道具が入手困難な状況、そしてカラチ周辺の海の荒れた波にもかかわらず、その決心は固い。

「今はお金のことは気にしていない。ただ競技がしたいだけ。これが僕のサーファーとしての姿勢です」と、レマンさんは言う。結婚して家族を養うために漁業を始めろという父親の懇願は一蹴した。

レマンさんの家族はパキスタン南部の貧しい沿岸地域の出身で、普段は漁業で生計を立てるか、カラチの裕福な住民がビーチに遊びに来たときに監視するライフガードとして働いている。

彼の父親は漁業で10人家族を養うために月に100ドル相当を稼いでいる。

「息子にサーフィンをやめるように何千回も言ったが、まだ言うことを聞かない」と父親のムハンマド・ラフィクさんはため息をついた。

レマンさんはライフガードをしていたが、9歳で始めたサーフィンに専念するためにそれを辞め、「ブルジのサーファー」と名乗る新しいコミュニティを立ち上げた。

このグループは50人ほどにまで成長し、クリケットとホッケーが中心的なスポーツであるこの国で、ソーシャルメディア上で話題になっている。

グループは沿岸の村々から来たサーフィン愛好家たちで構成されており、中には8歳の少年もいる。

晴れた日には、人口2000万人の大都市に近いのにほとんど人がいないビーチにサーフィンにちょうど良い波がやってきて、グループの仲間たちがサーフィンに熱中する姿が見られる。

メンバーの1人、漁師ムジャヒド・バロチさん(24)は、ソーシャルメディアで初めてサーフィンを見て、すぐに魅了された。

「ゆっくりと、観察しながら、乗れるようになった。誰も教えてくれなかったから」と彼は語った。

スリランカやその南にあるモルディブは世界中のサーファーのお気に入りの場所だが、パキスタンの乾燥した1000キロの海岸線は、通常サーフィンには適していない。地元の風が生み出す波は小さくて乱れたものが多く、まれにサイクロンによるうねりもある。

「サイクロンが接近してカラチ市全体に海から離れるよう勧告が出されていたとき、私と仲間たちはビーチに行く準備をしていた」とレマンさんは言う。「理想的な波がきていたから」

時々訪れるサーファーが一緒に漕ぎ出すこともあるし、海岸沿いの他の村にも小さなサーフィングループがあるが、世界の仲間と競争するのは大変だ。国際サーフィン協会にはウクライナや内陸国スイスなどを含む116カ国が加盟しているが、パキスタンはリストに載っていない。

それでも、「サーファーズ・オブ・ブレジ」のメンバーは米国のプロサーファー、ケリー・スレーターに憧れ、彼の動画を観ては感動に震え、彼の技術を真似したいと思っている。

しかし、パキスタンではサーフィン用具の入手が難しい。グループは約25枚のサーフボードを共有し、お金を出し合って必要な修理をしている。

時に彼らは、世界中からパキスタンに運ばれてきたガラクタの入った大きなコンテナの中に、廃棄されたボードを見つけることがある。こうした廃棄されたボードを35ドルで買い取り、接着剤や樹脂などの基本的な材料を使って修理する。

「壊れたら修理する。ここにはサーフボードがないから」とバロチさんは言う。海で拾って間に合わせのボードに加工した発泡材の板も見せてくれた。「もっと同じような発泡材が見つかれば、ここで自分たちでサーフボードを作ることができる」とバロチさんは言う。

「私たちのコミュニティはメンバーが増え、強くなっている。(業者は)私たちがこのような掘り出し物を欲しがるのを知っているので、保管しておいてくれるようになった」と、レマンさんは言った。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中