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焦点:気候変動で森林火災が急増、ネパールに打つ手はあるか

2023年07月03日(月)07時42分

 ネパール各地では、気候変動と関連した猛暑と干ばつの増加により過去最悪となった森林火災シーズンからの復興が進んでいる。ただ消防関係者や当局者は、森林火災に対応するために用いている手段が、もはや力不足になっているのではないかと懸念している。写真は2021年4月、同国のシバプリ国立公園で火災に対応する警官(2023年 ロイター/Navesh Chitrakar)

[ピュータン/カトマンズ(ネパール) 28日 トムソン・ロイター財団] - ネパール各地では、気候変動と関連した猛暑と干ばつの増加により過去最悪となった森林火災シーズンからの復興が進んでいる。ただ消防関係者や当局者は、森林火災に対応するために用いている手段が、もはや力不足になっているのではないかと懸念している。

一部の地域では、今年になって森林火災の急増を記録しており、専門家や緊急対応担当者は、延焼のスピードが速く消火がますます困難になってきていると指摘し、国家として対策を見直すべきだと語っている。

ネパール森林・環境省によれば、昨年11月から今年6月下旬までに、同国内では少なくとも3337件の森林火災発生が報告されており、2012年に記録が開始されて以来、乾季に発生した森林火災件数は過去3番目に多かった。

東部ラメチャープ郡の地域森林局のディペンドラ・ヤダブ広報官によると、同郡では平年よりも早い時期から森林火災が発生し始め、その件数は、前年の乾季にはわずか3件だったのに対し、今年の乾季には60件に増加したという。

ヤダブ氏は「延焼のスピードという点で、昨年までの乾季とは様子が異なる」と語る。森林火災の大部分は、人間が原因になっているという。狩猟や、牧草地とするために原野を焼き払うといった意図的な行為、あるいは事故によるものだ。

「(今季の)火事は、数分で森林全体を覆い尽くしかねない」とヤダブ氏は述べ、2000ヘクタールの森林が燃えてオレンジなどかんきつ類の果樹園が壊滅した例を説明した。延焼スピードが上がったのは、気温の上昇と雨不足という2つの要因が大きいという。

気象水文当局のデータでは、昨冬、ネパールの降水量は約13ミリにとどまり、平年に比べて約80%も少なかったことが示された。同省の主任気象学者インディラ・カンデル氏は、同国の平均気温は1年に摂氏0.056度ずつ上昇していると述べた。

ラメチャープ郡の森林局は、消火用具を配布し、「地域森林利用者グループ」と呼ばれる人々との協力のもとで、防火帯(延焼防止のため木々を伐採した帯状の土地)を設け、乾燥した葉や枝を除去し、防火用水を確保するための池を建設するなどの手を打ってきた。しかしヤダブ氏によれば、それでも今季の森林火災は抑えきれなかったという。

政府当局者や研究者らは、ネパールは森林火災に対して、地域グループや早期検知システムの活用などを通じてもっと積極的に手を打つ必要があるとし、全国レベルでこの問題に注力する専門機関の設置を求めた。

<さまざまな課題>

ピュータン郡中心部で34年間消防士を務めてきたヘムラジ・シャルマさん(58)は、おそらく今季をもって引退すると話す。

「1カ月前、近くの村で森林火災が急速に広がり、私自身も命を落とすところだった」とシャルマさん。霧と煙に巻かれ、もう1人の消防士が危険な状態から引っ張り出してくれたおかげで助かったという。

ピュータン郡で発生した森林火災は、昨年の乾季が15件だったのに対し、今年は約133件へと増加した。乾季の長期化など、気候変動の影響が地域森林局の対応を妨げている。

ピュータン郡森林局では地域全体に約50カ所の池を設けたが、平年よりも降雨が少なかったため、ほとんどの池には水がなく、火災発生の時も役に立たなかったと、シャルマさんは語る。

ほかにも課題はある。険しい地形のために多くの森林が到達困難で、また規模も激しさもこれまで以上に大きい巨大火災を抑えるには、放水ポンプや炎を叩き消すスワッターといった道具では力不足になっている。

ピュータン郡で森林管理を担当するディーパック・KC氏は、火災の防止・制圧において国内の森林の多くを管理する地域森林利用者グループの役割を拡大することは可能だろうが、そのためにはもっと多くの資金を調達できるよう支援が必要になるだろうと話す。

こうしたグループが、倒木を材料にした木材を販売するなど管理下の森林から得られる資源をもっと回収・販売できるようにすれば資金調達は可能になる、と同氏は説明する。

まさにそうした手法を実践しているのが、首都カトマンズのすぐ北にあるシンドゥ・パルチョーク郡で活動する地域森林利用者グループだ。地元の森林では過去10年間に火災が発生していないという。

リサンク・パカールにあるパートル地域森林グループのラメシュ・クマル・シャキャ代表によれば、毎年初め、地元住民は切り払って集めた低木を炭に焼き、家庭用の練炭に加工する企業に売却する。

シャキャ代表は、これによって森林火災のリスクを最小限に抑えつつ、一方で地域には安定した収入がもたらされると語った。「以前は、毎年夏になると火災で森林が破壊されたが、今ではそうした問題はない」

<健康問題や経済的損失への懸念>

国際非政府組織(NGO)「クリーン・エア・アジア」でネパールの技術専門スタッフを務めるブペンドラ・ダス氏は、このような地域単位のイニシアチブが広がっていけば、森林火災の件数の抑制に役立ち、ひいては大気汚染レベルを下げることができるだろうと述べた。

スイスのテクノロジー企業IQAirは4月半ば、カトマンズを世界で最も汚染がひどい都市と認定した。森林火災が国中で猛威を振るい、多くの煙と灰を生み出しているからだ。

国家災害リスク削減管理局(NDRRMA)のスンダル・シャルマ次官は、森林火災がピークに達した4月のネパールを「ガス室」のようだったと表現する。

シャルマ次官によれば、森林火災は気管支・肺・目の疾患につながる大気汚染をもたらし、国民の健康に深刻な影響を与えると同時に、経済的にも大きな損失を生じさせた。

森林・環境省とは別に森林火災のデータを記録しているNDRRMAが発表した数値によると、2005年以降、森林火災による死者は合計125人に上り、ネパールは年間百万ドル単位の損失を被っていると推計される。

だがNDRRMA当局者は、この数字も過小評価である可能性が高いと指摘。公式に報告されない火災も多く、全般的に記録管理体制が貧弱という現実があるからだ。

シャルマ次官はまた、こうした推計には、薬用植物から製材用の樹木に至るまで、生物多様性の損失が反映されていないとして、その点も改める必要があるとの見方を示した。

(Aadesh Subedi記者、Mukesh Pokhrel記者、翻訳:エァクレーレン)

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