ニュース速報

ワールド

アングル:国際目標の達成へ、求められる「正しい自然保護」

2022年12月26日(月)08時48分

 12月19日、カナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、生物多様性の喪失を阻止し、回復させる世界目標で合意に達した。写真はムラサキイガイの貝殻。ノルウェー西部で2018年7月撮影(2022年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

By Jack Graham

[モントリオール(カナダ) 19日 トムソン・ロイター財団] - カナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は19日、生物多様性の喪失を阻止し、回復させる世界目標で合意に達した。研究者らや関係者は、この合意が気候変動対策にも重要な役割を担うことになると指摘する。

アマゾンの熱帯雨林から東南アジアのマングローブ林に至るまで、自然地域は地球温暖化につながる二酸化炭素を大量に吸収してため込むことで、気候変動を遅らせている。

だが国連の報告によると、森林破壊や鉱業といった人間の活動は、これまでに世界中の大地の40%を劣化させている。また世界の気温上昇は植物や動物、海洋生物の生存にも脅威を及ぼしているという。

「自然と気候変動の危機は、課題と対策の両面で切っても切れない関係にある」と、英政府に環境問題の政策提言を行う非省庁公共機関ナチュラル・イングランドのトニー・ジュニパー理事長は話す。

19日、COP15の交渉が佳境に入る中行われたインタビューで同氏は、生物多様性と気候変動にそれぞれ対応している別々の国連会議の枠組みが、最近の決定文書の中でこの2つの危機の関連性に言及しており、「点と点がつながった」と指摘した。

2015年のパリ協定では、気温上昇を摂氏2度以内、理想的には1.5度以内に収めるという目標が掲げられている。これを2030年に達成するために必要な温室効果ガスの削減量の3分の1を、自然保護と回復、自然地域のより良い保全によって達成できる可能性があると、科学者らは指摘する。

「データと、1.5度以内の達成条件を見れば、環境破壊の阻止と回復に向けた投資の両方が絶対条件であるのは明らかだ」とジュニパー氏は語る。

いわゆる「自然に基づいている」とされる解決策は、森林や湿地の生態系を回復させることを目的としている。これによって、生物多様性の回復と二酸化炭素の吸収の両方を達成しようというのだ。

19日の合意には、荒廃した土地や陸水、沿岸と海洋における生態系の30%以上を2030年までに回復するという目標が盛り込まれた。

これは、同年までに世界の陸と海の30%を保護・管理することを目指した「30X30」というスローガンに上乗せさせられたかたちとなっている。

国連は今月、世界中の生態系回復に向けた優先事項を発表した。その中で、汚染されたインドのガンジス川の浄化や、アフリカのグレート・グリーン・ウォール(「緑の万里の長城」)計画で行われるサハラ砂漠の草原の回復や植樹など、10の旗艦プロジェクトが挙げられた。

だがプロジェクトが充実する一方で、科学者らは、こうした取り組みが気候や生物多様性にとってプラスになるには、回復計画が慎重に練られる必要があると警告している。

パリ・サクレ大学で生態学を教えるポール・レドリー教授は、「植樹ブーム」について、同じ種のものだけを植えたり、適切でないエリアに植えることは「望ましくない結果」を生む危険性をはらむと指摘する。

「一番の問題は、単一種の植樹だ。こうした植樹にしばしば外来樹種が使われ、人々はそれを自然回復だと勘違いしている」と語った。

研究者らによると、例えば、ユーカリの大規模な植樹を行えば地球温暖化を悪化させる温室効果ガスを削減できるかもしれないが、その代わりに土壌の劣化や、現地の水供給、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性がある。

「温室効果ガスのことにとらわれて外来種のユーカリを大量に植樹することは、生物多様性にかなりのダメージを与えることになる」とレドリー教授は述べた。

<社会のセーフガード機能>

自然回復を包括的に成功させるには、自然と人を大切にする必要があると、自然保護活動家らは口にする。

「森林回復や生態系に合った植樹は、かなりの労力を必要とする」と、国際野生生物保全協会の政策専門家、アルフレッド・デジェミス氏は語る。

同氏によると、回復プロジェクトは、その生態系における生物の行動や、異なる生物が新たに出現することに対する反応など、生態系の動植物の構造や機能を踏まえて検討される必要がある。

またプロジェクトは、影響を受ける可能性のある現地住民からの同意を得て行われるべきだと指摘する。

「国際、また国内の人権法に沿った社会的セーフガードの枠組みをしっかりと確保する必要がある」とデジェミス氏は話した。

<連携のとれた政策>

環境保全団体WWFインターナショナルのアフリカ地域ディレクター、アリス・ルウェザ氏は、自然回復プロジェクトで良い結果を出すには国レベルでの連携が必要だという。

各国政府は、国際的に通用する政策やアプローチを立てる必要があると、同氏は語る。また最も費用対効果の良いプロジェクトを見つけるために、十分な財源と科学的知見を蓄える必要があると指摘した。

ルウェザ氏は、気候変動や環境、農業などの行政を異なる省庁が担当し、連携が取れていない事例はよく起きているという。各国政府は、効果的に協力して働いている現場の人々から学ぶべきだと述べた。

「アフリカにおいて地域レベルで活動した経験から言うと、チームワークはどの現場にも存在する」とルウェザ氏は語った。

生物多様性の喪失と気候変動を防ぐために残された時間が限られる中、自然保護関係者らはCOP15で、環境保護がより幅広い効果を発揮できるよう、大胆な目標を設定するよう求めた。

だがレドリー教授は、各国政府は科学的提言に沿ったかたちで今回の合意内容を履行するべきだと指摘。

「過大な回復プロジェクトを拙速に進めようとすることによるマイナス効果に、われわれは大きな懸念を抱いている」と説明した。

同氏によると、プロジェクトを効果的なものにするためには、政府は国際的に打ち立てられた30%目標をそのまま国内政策にあてはめるのではなく、該当地域の状況に配慮する必要があるのだという。

「あの目標は、国の進路を照らすための光として掲げるべきだ」と語った。

(Reporting by kyoko yamaguchi)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中