ニュース速報

ワールド

アングル:増える「デジタルノマド」、課題は環境保護との両立

2022年07月31日(日)09時24分

 7月27日、 ポルトガルの首都リスボン中心部。6月のある朝、営業スペシャリストのビクトール・ソトさん(33)はカフェのテラスに座り、欧州から米州まで世界中の同僚と連絡を取り合いながら仕事に励んでいた。写真はサンパウロのカフェでパソコンを使って作業する女性。2017年10月撮影(2022年 ロイター/Nacho Doce)

[リスボン 27日 トムソンロイター財団] - ポルトガルの首都リスボン中心部。6月のある朝、営業スペシャリストのビクトール・ソトさん(33)はカフェのテラスに座り、欧州から米州まで世界中の同僚と連絡を取り合いながら仕事に励んでいた。

英国とペルーの二重国籍を持つソトさんが、いわゆる「デジタル・ノマド(放浪者)」になったのは新型コロナウイルスのパンデミックがきっかけだ。

「このライフスタイルは豊富な選択肢と自由を与えてくれる」。旅行に情熱を傾けるソトさんは、完全なリモートワークを認めてくれる企業にしか勤務しないと決めた。

ソトさんの働き方は、デジタル・ノマドの間に広がるもう一つの潮流にも合致する。仕事しながらせわしなく移動するのではなく、1カ所の滞在期間を長くする「スローマド(ゆっくりとした放浪者)」というトレンドだ。より深い文化体験を楽しみたい人々から、飛行機での移動を減らして環境に配慮したい人々まで、その動機は多岐にわたる。

パンデミックに伴う制限措置が解除されて以降、米民泊仲介大手エアビーアンドビーや米ツイッターといった大手企業の対応に後押しされ、リモートワークや柔軟な働き方が流行している。デジタル・ノマド向けに、最長2年間の滞在と労働を認めるビザを発給する国も増えてきた。

<スローダウン>

パンデミック前、典型的なデジタル・ノマドは20代のフリーランスだった。短パンとビーチサンダル、ノートパソコンだけといった身軽さでリゾート地を転々とする若者たちだ。

だが今、仕事と旅行を組み合わせたライフスタイルは、もっと上の世代にも広がっている。多くは家族連れで1カ所に長く滞在し、安い賃料を享受し、地元文化との交わりを深めている。

フリーランス専門の人材会社フィバーと旅行ガイド出版社ロンリー・プラネットが5月に公表した調査結果によると、ノマドワーカーのうち1―3カ月ごとに移動する人の割合は3分の1で、55%は1カ所に3カ月以上とどまると答えた。

デジタル・ノマドの大半を占めるのは米国人だ。米フリーランス専門人材会社アップワークが2021年に実施した調査では、2025年までにリモートワークを行う米国民は3620万人に達すると推計されている。これはパンデミック前に比べて87%の増加となる。

世界各地の観光地はデジタル・ノマドを誘致してロックダウン(都市封鎖)中に被った損失を取り返すため、素早く行動を起こしている。

カリブ海のバルバドス、アフリカ北西沖のカーボベルデ、クロアチア、エストニア、インドネシア、マルタ、ノルウェーの各国は「デジタル・ノマド・ビザ」を導入した。

ただ一方で、デジタル・ノマドが環境に及ぼす影響への懸念も高まっている。1カ所の滞在期間が延びたとは言え、二酸化炭素排出量の多い飛行機を頻繁に利用することに変わりはないからだ。

元デジタル・ノマドのエマヌエル・ギセットさんは、「私たちは少し罪悪感を覚えている。このライフスタイルの一番の問題は飛行機の利用だからだ」と話す。

ギセットさんは現在、リモートワーカーなどにシェアハウスを提供するアウトサイト社の最高経営責任者(CEO)。ノマドの間では、炭素排出量の削減につながる植樹などの活動に資金を提供することで、気候変動への影響を相殺しようとする動きが高まっていると語った。

しかしこうした活動について環境活動家からは、「ごまかし」に過ぎないとの厳しい言葉も寄せられている。

<共同居住地で環境活動>

一方、リモートワークの普及によって居住や仕事の共同スペースが数多く生まれ、その一部は環境保全のための活動を実践に移している。

アウトサイトは最初に手がけたカリフォルニア州の共同居住物件で、予約が1件入るごとにアンデス山脈からインドネシアに至る幅広い地域で樹を一本植えることにした。

ポルトガルの広大な農業地帯、アレンテージョでは2023年夏、さらに野心的な共同居住スペースがオープンする予定だ。デジタル・ノマドやエンジニア、芸術家、暗号資産(仮想通貨)関連の実業家などがコミュニティーを作り、働きながら土地の再生や自給自足生活にも取り組む構想を掲げている。

プロジェクトを計画するトラディショナル・ドリーム・ファクトリーの共同創業者サミュエル・デレスクさんは元ソフトウエアエンジニアでデジタル・ノマド。「経済価値と環境保護を両立させられなければ、人類は本当に種として滅ぶ定めだ」と力説した。

(Joanna Gill記者) 

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、カリフォルニア州提訴 選挙区割り変更

ワールド

米政府、独などの4団体を国際テロ組織指定 「暴力的

ビジネス

米経済にひずみの兆し、政府閉鎖の影響で見通し不透明

ワールド

トランプ氏がウォール街トップと夕食会、生活費高騰や
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中