ニュース速報

ワールド

アングル:オミクロンでも集団免疫は困難か、「変異」ネックに

2022年01月22日(土)11時11分

 1月20日、 新型コロナウイルスの新変異株・オミクロン株は、従来株をはるかにしのぐスピードで感染を広げている。写真はオミクロン株陽性のイメージ。15日撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

[シカゴ 20日 ロイター] - 新型コロナウイルスの新変異株・オミクロン株は、従来株をはるかにしのぐスピードで感染を広げている。しかし、十分な数の人々が免疫を獲得して感染拡大が止まる「集団免疫」の達成がオミクロン株によって容易になるとの見方に専門家は否定的だ。

公衆衛生当局は流行の早い時期から、人口の十分な割合がワクチンを接種するか、ウイルスに感染すれば集団免疫の状態に達する可能性があるとの期待を示してきた。

だが、この1年間に新型コロナウイルスが次々と新しい株に変異し、ワクチン接種済みの人や既に感染した人も再感染するようになったため、こうした希望に影が差した。

昨年末にオミクロン株が出現して以降、あらためて集団免疫達成に期待を抱くようになった医療当局者もいる。

オミクロン株は感染拡大が速く、症状が軽いことから、近いうちに十分な数の人々が比較的軽い症状のままコロナに感染し、免疫を獲得するのではないかという理屈だ。

ところが、専門家によるとオミクロン株の感染が速いのは、ワクチン接種済みの人や感染済みの人を感染させる能力が、従来株よりさらに高いことが一因だ。

つまり、新型コロナウイルスが今後も免疫の防御を突破する方法を見つけ続けると考える根拠が増えた。

世界保健機関(WHO)の伝染病専門家、オリビエ・ルポラン博士はロイターに対し「理論的な閾値(いきち)を超えると感染が止まるというのは、今回のパンデミックの経験を考えると、おそらく現実的ではない」と述べた。

ただ、免疫の獲得が何の役にも立たないというわけではない。ロイターの取材に応じた多くの専門家によると、集団免疫には至らないまでも、ワクチン接種と感染により新型コロナに対する免疫が集団として高まり、感染者あるいは再感染者の重症化が、避けられるという証拠が増えているという。

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の感染症専門家のデイビッド・ヘイマン博士は「オミクロン株と今後発生する新たな変異株に対して集団としての免疫がある限り、幸い新型コロナは対処可能な疾病になるだろう」と述べた。

<はしかとは異なる>

今の新型コロナワクチンは、感染よりも重症化や死亡を防ぐことを主眼に設計されている。

2020年後半の臨床試験の結果、2種類のワクチンが90%以上の有効性を示したため、はしかが予防接種で抑え込めたように、新型コロナも予防接種の拡大で鎮圧できるのではないかとの期待が当初広がった。

だが、新型コロナでは2つの要因がこうした期待を後退させたと、ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の伝染病専門家、マーク・リップシッチ氏は指摘する。

「第1の要因は、免疫、中でも重要な免疫である感染に対する免疫が、少なくとも今あるワクチンでは非常に速く低下することだ」と言う。

2つ目の要因は、免疫力が薄れていない場合でも、ワクチン接種や感染による防御を逃れることができるような形にウイルスが急速に変異する可能性があるという点だ。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校医学部の感染症専門家、デビッド・ウォール博士は「ワクチン接種者でもウイルスをまき散らし、他の人々を感染させ得るとなると、状況はがらりと変わる」と話した。

ウォール氏は、オミクロン株に感染すれば防御力が上がると思い込まないよう注意を促している。次に発生するかもしれない変異株への防御力については、特にそうで「オミクロン株に感染しても、防ぐことはできるのはオミクロン株への再感染だけかかもしれない」と述べた。

ヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDP)のインフルエンザ専門家、パシ・ペンティネン氏は、今後出てくるかもしれない変異株、あるいは複数の種類のコロナウイルスに対して効力を持つワクチンが現在開発されており、それによって状況が変わるかもしれないと指摘した。ただ、時間はかかるという。

それでも集団免疫が、普通の生活に戻るための「切符」になるという希望は根強い。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのフランソワ・バルー教授は「メディアは以前、人口の60%がワクチンを接種すれば集団免疫に到達すると報じていたが、そうはならなかった。次は80%なら到達すると報じたが、それも実現しなかった」と述べた。「恐ろしい話だが、大多数の人、つまり事実上、全ての人が新型コロナに感染するという事態を覚悟する必要があると思う」と指摘する。

各国の医療専門家は、新型コロナのパンデミックが最終的に、特定の地域や周期で繰り返し発生する「エンデミック」に移行すると予想している。だが、オミクロン株の出現により、それが起こる具体的な時期が問われるようになった。

WHOのルポラン氏は「いずれはその状態に到達するだろう。しかし、今のところそうなっていない」と話した。

(Julie Steenhuysen記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中