ニュース速報

ワールド

焦点:利下げに賭けるエルドアン大統領、インフレ進行で総選挙へ

2021年12月04日(土)08時12分

 12月1日、トルコのエルドアン大統領は2023年の総選挙を見据え、自らの政治生命を賭け、金利引き下げで落ち込んだ支持率の回復を図ろうとしてる。しかし、そうした「ばくち」は、既に有権者に大きな経済的打撃をもたらしている。アンカラで撮影。提供写真(2021年 ロイター/Murat Cetinmuhurdar/PPO)

[イスタンブール 1日 ロイター] - トルコのエルドアン大統領は2023年の総選挙を見据え、自らの政治生命を賭け、金利引き下げで落ち込んだ支持率の回復を図ろうとしてる。しかし、そうした「ばくち」は、既に有権者に大きな経済的打撃をもたらしている。

20年近くにわたりトルコを率いてきたエルドアン氏は、雇用や成長、輸出の拡大と低金利を推し進めていくと強調しつつ、通貨リラの歴史的な下落やインフレ率の急騰などの経済現象は無視している。

この政策転換によって、エルドアン氏と与党・公正発展党(AKP)は23年の選挙に向けて、保守的な労働者や低中所得層の有権者の支持を高めようと最後の手段に打って出たかもしれない、とアナリストは指摘する。

ただ、物価高とリラ安は、すでに国民の家計と今後の人生設計を直撃している。

敬けんなイスラム教徒であるエルドアン氏が少年時代を過ごし、AKPの拠点でもあるイスタンブールのカシンパサ地区。労働者階級が多く住む同地区では、誰もが生活費の急上昇に見舞われており、それが票の行方を左右しそうだとの声が聞かれる。

エルドアン氏が礼拝に通っていたモスクの向かいで喫茶店を営むアブドゥラーム・エレニルさんは「店に来る人たちは、物価にすごく不満を持っている。生活が苦しいというのはみんなが抱えている問題だ」と話した。

「経済の状況が変われば、人々の考えも変わる。次の選挙でAKPの票は確実に減ると思うが、それでもAKPへの支持はとても強い」と言う。

AKP政権の初期は、2001年に深刻な危機に見舞われたトルコ経済を、自由市場政策と正統的な金融政策を押し進めることで立て直す手腕を発揮した。だが、その時代とは何もかもが変わってしまった。

<世論調査で苦戦>

エルドアン氏の圧力を受けて、トルコ中央銀行は今年9月以降、政策金利を400ベーシスポイント(bp)引き下げて15%とした。物価上昇率は20%近くに達し、さら30%に近づくと予想されているのに、中銀はそれでも今月中に追加利下げに踏み切る公算が大きい。

その影響は劇的に広がりつつある。 リラは11月だけで約30%も下落し、月間の下落幅としては過去2番目の大きさとなった。トルコの大幅にマイナスの実質金利、高水準の対外債務と輸入依存度などが背景にある。

国民は医薬品や携帯電話など輸入品を手に入れるのに苦労し、野党の指導者は選挙の前倒し実施を求めている。野党のIYI党を率いるメラル・アクシェネル氏は「この国をこれ以上、こうした無知蒙昧(もうまい)の状態に放置できない」と訴えた。

11月27日に発表されたMAKダニスマンリクの世論調査によると、エルドアン氏のAKPと民族主義者行動党(MHP)の与党連合側、野党連合側は支持率がそれぞれ約39%で拮抗(きっこう)している。

また、メトロポールの調査では、エルドアン氏の支持率は6年ぶりの水準に低迷している。各種調査に基づくと、エルドアン氏は、アクシェネル氏のほかイスタンブール市長で野党の共和人民党(CHP)に属するエクレム・イマムオール氏などの候補に大統領選で敗北すると予想されている。

政府高官は「与党連合が支持を失っているのは明白だ。経済政策で成果を出す必要があり、それができなければ票が減るかもしれない」と語った。

<耳を貸さず>

一方、あるAKP幹部は、新たな政策が総選挙の頃には効果を発揮すると見ている。「もちろん難しい局面を迎えているが、今必要なのは時間だ」と言う。

ロイターが消息筋の話として伝えたところでは、エルドアン氏がトルコの「経済的独立戦争」と呼ぶ政策を巡り、政府内からも撤回を求める声が上がったものの、同氏は耳を貸さなかった。

エルドアン氏はこの2週間で6回もあった利下げを擁護し「後戻りはできない」と発言。しかし、そのほぼ全てのタイミングでリラは過去最低の水準に下落し、11月30日には一時1ドル=14リラを付けた。エルドアン氏が前の中銀総裁を解任し、積極的に金融緩和策を推進し始める前の2月は6.9リラだった。

食料品価格は前年から30%近く上昇し、リラ安が輸入物価やより広範なインフレ期待をあおり立てている。

イスタンブール・エコノミクス・リサーチのゼネラルマネジャー、カン・セルチュキ氏は「最も深刻な問題は高インフレだ。政府とエルドアン氏に対する有権者の心象は、さらに悪化するだろう」と述べた。

(Ezgi Erkoyun記者、Orhan Coskun記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、紅海任務のホルムズ海峡への拡大に慎重=カラス

ビジネス

米住宅業者の景況感、低迷続く 3月わずかに改善

ワールド

ホルムズ海峡船舶護衛、欧州の多くで慎重論 「われわ

ワールド

トランプ氏訪中、延期の公算 「イラン作戦の成功優先
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中