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アングル:モスルでIS敗退、なお残る米同盟国の「重い課題」

2017年07月12日(水)09時06分

 7月10日、過激派組織「イスラム国(IS)」からモスルを奪還した米国とその同盟国は今後、過去の二の舞を避けるため、困難な仕事に取り掛かることになる。写真は廃墟と化したモスルを歩くイラク連邦警察員(2017年 ロイター/Thaier Al-Sudani)

[ワシントン 10日 ロイター] - イラクのアバディ首相は10日、過激派組織「イスラム国(IS)」が支配していた北部都市モスルに入り、3年に及ぶ戦闘の勝利を宣言した。米国とその同盟国は今後、新たな派閥闘争により勝利が雲散霧消するという過去の二の舞を避けるため、困難な仕事に取り掛かることになる。

ワシントンの外交筋や米高官によると、戦場での勝利は、ISによる「カリフ」(イスラム教預言者ムハンマドの後継者)宣言に致命傷を負わせる可能性がある一方で、新たな課題とリスクを生じさせかねない。

一番の問題は、海外支援に後ろ向きなトランプ米大統領、そして欧州と中東の同盟諸国が、物理的・政治的な復興という長期的な作業に取り組むかどうかだ。

ある西側の外交筋は「関与を続けて仕事を遂行しない限り、10年後にまた同じことが繰り返されることを、だれもが痛感したはずだ」と言う。

外交筋や米政府高官らが1つの懸案事項として挙げたのは、ISの敗退で空いた穴をイランが埋め、イラクとシリアの双方で勢力を拡大する可能性だ。

もう1つは、イスラム教スンニ派に政治・経済面で一定の権限を与えなければ、彼らが闇にもぐったISの誘いに乗りやすくなる恐れだ。

トランプ政権は、10月から始まる2018年度予算でイラクおよびシリアでの対IS戦闘費に130億ドルを配分している。

1月まで米国際開発庁(USAID)で災害救助を監督していたJeremy Konyndyk氏は「この予算のほんの一部でも復興に回せるだろうか」と案じる。

現在はグローバル・デベロップメント・センターに所属する同氏によると、米軍がイラクから撤退した2011年、米国は支援のための予算と人員を削った。「軍事的な関与に専念し、軍の仕事が終わった途端、それ以外の手段は止めてしまうという同じ過ちを繰り返してはならない」という。

<2正面作戦>

米国務省によると、同盟72カ国は11─13日にワシントンで会合を開き、多角的なIS掃討策の強化方法を主に話し合う。

米高官らによると、トランプ政権の紛争の後処理は二正面作戦となる。

米国は、イラクの開放地域の安定に向けた同国および国連主導の取り組みを支える。

しかしシリアで内戦が続行しているため、米国はより慎重で地域に根差した安定化計画も実行していく。既にモスル東部では計画が始まっているが、戦闘がより激しかった西部の安定化は、より困難な仕事になりそうだ。

外交官やアナリストによると、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)やマティス国防長官などトランプ大統領の側近は、イラクの安全確保にコミットし続けている。

ワシントン近東政策研究所のフェロー、マイケル・ナイツ氏は「イラクでの戦略は、ISの再起と、イランの支援を受けた勢力による米国勢の追放を防ぐことだ。この2つの問題はリンクしていると見なされている」と述べた。

(Warren Strobel記者 Fatima Bhojani記者)

ロイター
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