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南シナ海の哨戒活動を防衛省検討、米軍と協力=関係筋

2015年04月29日(水)21時19分

 4月29日、南シナ海の哨戒活動が検討されている。写真は訓練を行う日米の艦船。昨年11月入手(2015年 ロイター/Mass Communication Specialist 3rd Class Chris Cavagnaro/U.S. Navy/Handout via Reuters)

[東京/ワシントン 29日 ロイター] - 米軍が自衛隊に期待を寄せる南シナ海の哨戒活動について、防衛省内で検討が始まっていることが分かった。米軍と自衛隊が協力し、同海域での存在感を示すことで、自国の領海として囲い込もうとする中国をけん制するのが狙い。

しかし、装備のやりくりや、新たな安全保障法制の整備が終わっていない点など課題も多い。   

複数の日米関係筋が明らかにした。議論は初期段階だが、日本側の関係者によると、自衛隊と米軍の哨戒機が南シナ海を共同でパトロールしたり、交代で見回ることなどが想定されるという。南シナ海の東半分だけなど、哨戒範囲を限る可能性もある。

日本からの飛行距離を伸ばしたり、故障や事故が起きた場合に備え、フィリピンなど周辺国の基地使用についても検討事項になるかもしれないと、日米の関係者は指摘する。   

中国は南シナ海のほとんどを自国の領海と主張し、南沙諸島の浅瀬を埋め立てて、人工島を造ろうとしている。日米関係者の間では、いずれレーダー網が構築され、中国の艦船や軍用機が駐留し、実効力を伴なった防空識別圏(ADIZ)が設定されるとの懸念が広がっている。

自衛隊が南シナ海に哨戒範囲を広げれば、中国を刺激する可能性もある。しかし、日米が協力して警戒監視に当たる姿勢を見せることで「自分の海ではないということを(中国に)示す必要がある」と、日本側の関係者は話す。

沖縄県の嘉手納基地に最新のP8哨戒機6機を配備する米軍は、自衛隊の哨戒活動拡大にかねてから期待を示している。ロバート・トーマス第7艦隊司令官は今年1月、ロイターとのインタビューで「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは理にかなっている」と発言した。

自衛隊はP3C哨戒機を70機保有、さらに航続距離が2倍の次期哨戒機P1を2018年度までに23機購入し、海の警戒・監視能力を高めようとしている。自衛隊の元海将によると、航空機による監視任務は低空、低速で行うために燃費効率が悪くなるが、P3Cでも南シナ海の哨戒は可能だという。

米国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長、エバン・メデイロス・アジア氏は、南シナ海の航行の自由、制限のない商業活動を守るため、日米の「足並みはそろっている」と語る。日本は南シナ海の哨戒に乗り出すことで、米軍が収集した同海域の情報を共有できるようになる。

ただ、哨戒機は訓練や演習にも使用するほか、整備・修理が必要で、実際に稼働できる機材は全体の7─8割とされる。自衛隊は東シナ海など日本周辺の対応に追われているうえ、ソマリア沖・アデン湾の海賊対処にもP3Cを派遣しており、運用に余裕があるわけではない。   

日本が整備している安保法制との整合性や運用上の課題、海域の周辺諸国との調整、任務に当たる隊員の安全確保など様々な要因を踏まえ、日本側は慎重に検討を進める考えだと、日米の関係者は言う。

27日に合意した新たな防衛協力の指針(ガイドライン)で、日米両政府は、警戒監視や情報収集で自衛隊と米軍が協力することを明記した。「日本の平和及び安全に影響を与えうる状況の推移を常続的に監視することを確保するため、相互に支援する形で共同のISR(情報収集・警戒監視・偵察)活動を行う」などとしている。

日本は南シナ海で領有権を争う当事国ではないが、同海域は年間5兆ドル規模の貨物が行き交う貿易ルート上の要衝で、その多くが日本に出入りしている。

28日にワシントンでカーター国防長官と会談した中谷元防衛相は、南シナ海は「地域の平和と安定に直結をするし、日米及び地域共通の関心の問題だ」と語った。

(久保信博、ティム・ケリー、デービッド・ブランストロム 編集:田巻一彦)

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