ニュース速報

ビジネス

アングル:ビットコイン天国のカザフ、デモ契機に揺らぐ優位性

2022年01月22日(土)13時55分

 1月14日、暗号資産(仮想通貨)ビットコインの採掘業者にとって「天国」だったカザフスタンが、その輝きを失うかもしれない。写真は主要都市アルマトイで6日、抗議デモを受け煙を上げるTV局などが入居するビル(2022年 ロイター/Mariya Gordeyeva)

[ロンドン 14日 ロイター] - 暗号資産(仮想通貨)ビットコインの採掘業者にとって「天国」だったカザフスタンが、その輝きを失うかもしれない。燃料価格引き上げへの抗議デモを受けて1月初旬に全土でインターネットが一時遮断されたのをきっかけに、規制強化への懸念が強まり、一部の大手業者が他国に拠点を移そうとしている。

カザフスタンは昨年、米国に次ぐ世界第2位のビットコイン採掘(マイニング)拠点となった。そのカザフ政府がネットを遮断したことで、採掘に使われるデータセンターがオフラインとなり、世界のビットコイン計算能力が約13%落ち込む事態となった。

カザフスタンの全国ブロックチェーン・データセンター協会のアラン・ドルジエフ氏は、現在、大半の採掘業者がネットワークに再接続されていると述べた。

しかし、ロイターが取材した4つの主要採掘業者によると、カザフ政府が暗号資産業界への監視を強め、業界の安定性と将来性に懸念が広がっている。ネットの遮断はそうした懸念に拍車をかけたという。

電力コストの安さにひかれて中国からカザフに拠点を移した採掘業者のビンセント・リュー氏は、環境の変化を踏まえて北米かロシアへの移転を検討し始めた。

「2、3年前、われわれはカザフスタンを採掘産業の天国と呼んでいた。政治環境と電力が安定していたからだ」と説明。「状況を見極めているところだ。ハッシュレート(採掘能力)の一部をカザフスタン国内に残し、一部を他国に移すことになりそうだ」と語った。

ビットコインなどの暗号資産は、難解な数学問題を解く強力なコンピューターによって「採掘」される。コンピューターは世界的なネットワークに接続されている。この過程で大量消費される電力はしばしば、化石燃料を電源としている。

かつては中国が採掘の一大拠点だったが、同国政府が暗号資産業界への締め付けに乗り出したため、採掘業者やデータセンターは大挙してカザフに移転した。

昨年8月時点でカザフは、世界のハッシュレートの18%を占めるに至った。中国からのシフトが始まる前の4月には、この割合が8%にとどまっていた。

<電力を巡る懸念>

カザフの採掘業者は、大半が老朽化した石炭火力発電所に電力供給を頼っており、脱炭素化を目指す当局にとって悩みの種だ。採掘業者による電力の大量消費が原因で、カザフは電力を輸入し、国内供給を割当制にせざるを得なくなった。

カザフ政府は現在、大半が無登録で外資所有の暗号資産業者について、課税と規制の方法を検討している。政府は昨年、無登録の採掘業者の取り締まりを計画していることを明らかにした。政府は、無登録業者が登録済み業者の約2倍の電力を消費していると推定している。

採掘業者BTC・KZの共同創業者、Din-mukhammed Matkenov氏は、中国から採掘業者が押し寄せ、電力を大量消費することによって国内業者の苦境は強まっており、顧客は米国かロシアに拠点を移すかもしれないと話す。

「カザフスタンの採掘産業の発展と安定性が、脅かされていると思う。非常に不安定になっており、利益で電気代と給与を支払えるかどうか分からない。わが社は破綻の瀬戸際にあり、顧客は政情がもっと安定している国を探している」と語った。

カザフのエネルギー省にコメントを要請したが、すぐには返信が得られなかった。

しかし、4つの採掘業者によると、カザフは税率と労働コスト、設備コストが比較的低いため、依然として魅力がある。

カナダの採掘業者Pow.re.のマイク・コーエン氏は「資本の充実したプロジェクトを展開する場合、カザフの方が西側諸国よりもずっと迅速に事が運び、ビジネスがしやすい」と指摘。「この地域で事業を行おうとする人々は、地政学リスクに対する許容度が高く、化石燃料を電源とすることにためらいはない」と述べた。

(Tom Wilson記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    バイデンと同じ「戦犯」扱い...トランプの「バラ色の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中