ニュース速報

ビジネス

焦点:貿易赤字が円安要因に、「アベノミクス相場」初期と類似

2021年11月29日(月)14時41分

 11月29日、足元の円安トレンドはドル主導だが、円側の材料もある。にわかに拡大する貿易赤字だ。円安が進む中でも輸出が伸び悩む一方、エネルギー価格の上昇で輸入は増加。2012年末からの「アベノミクス相場」初期に似た構図となっている。都内の港湾地区で2019年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

浜田寛子

[東京 29日 ロイター] - 足元の円安トレンドはドル主導だが、円側の材料もある。にわかに拡大する貿易赤字だ。円安が進む中でも輸出が伸び悩む一方、エネルギー価格の上昇で輸入は増加。2012年末からの「アベノミクス相場」初期に似た構図となっている。

<数量減・金額増のエネルギー輸入>

10月の貿易収支は685億円の赤字。8月の6354億円、9月の6228億円からは赤字額は縮小したが、3カ月連続の輸入超過となった。10月は輸出が前年比で9.4%増加したものの、輸入が同26.7%と大きく増えた。

赤字の要因は原油や液化天然ガス(LNG)など約2割を占める鉱物性燃料の価格上昇だ。数量は原油および粗油が前年比0.6%、LNGが22.1%と減少したが、価格高騰で金額はそれぞれ81.0%、67.6%と大きく伸びた。

一方、輸出は電気機器が10.5%増、一般機械が22.9%増と伸びたものの、自動車など輸送用機器は28.7%減となった。アジア、中国向けの輸出額は10月としては1979年1月以降で最大となったが、46.4%減となった北米向けの自動車などが足を引っ張った。

みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、輸入額を増加させているのは石油や石炭であり、高騰している価格が落ち着けば赤字幅は小さくなると予測する。しかし「日本からの輸出が伸びない理由は半導体を中心とした部品不足なので、輸出と輸入の問題は別で考えなければならない」と指摘する。

<表れにくい「Jカーブ効果」>

こうした構図は、2012年末以降の「アベノミクス相場」初期の動きに似ている。当時は日銀の超金融緩和もあり円安が進んだが、輸出は伸び悩んだ。日本企業が現地生産を拡大させる中、為替の影響度が低下したとの見方が一般的だ。

一方、輸入側では、当時もエネルギー価格の増加が大きな要因となった。特にLNG価格の高騰で、2011年に4兆7872億円だったLNG輸入が2014年には7兆8509億円と、3年で63%増加した。

経済理論的には、円安が進めば輸出価格が低下し、輸出数量が増加することで貿易収支が黒字化し、為替も円安要因から円高要因に変わる。貿易黒字になれば、獲得した外貨を円に換えることになるためだ。

しかし、いわゆる「Jカーブ効果」はなかなか発揮されず、年次データでみると貿易収支は14年まで赤字拡大を続け、16年になってようやく黒字化した。その間ドル/円は上昇を続け、12年11月14日の80.24円から、15年6月5日には125.86円を付けた。

<貿易収支は短期トレンドに影響も>

足元、対ドルで進む円安はドルが牽引している。インフレ高進が止まらない中、米連邦準備理事会(FRB)のテーパリング(量的緩和の縮小)加速などの警戒感が強まり、米金利が上昇、ドル指数が1年4カ月ぶりの水準に上昇するなどドルを押し上げている。

SMBC信託銀行のマーケットアナリスト、合澤史登氏は「為替市場は貿易収支のほか、各国の金利差や景気の強さ・弱さなど含めて、総合的な材料で決まるもの」だと指摘する。日本は所得収支で大きな黒字を稼ぐ経常黒字国でもある。

過去のドル/円相場と貿易収支の推移をみても、貿易収支が主因となる長期的な関係は見出しにくい。しかし「貿易収支はフローが一方通行なので、短期的なトレンドに影響を与えやすい」(ニッセイ基礎研究所・経済研究部上席エコノミスト、上野剛志氏)との見方も聞かれる。

現在は、原油高と円安による影響に注目が強まりやすい状況だ。「アベノミクス相場」初期のように、貿易赤字が円側の円安材料として材料視されれば、円安を加速させる要因になるとみられている。

(浜田寛子 編集:伊賀大記)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備の運用担当者、FRBの独立性に懸念=UBS

ワールド

サウジ非石油部門PMI、6月は57.2 3カ月ぶり

ワールド

ロシア失業率、5月は過去最低の2.2% 予想下回る

ビジネス

日鉄、劣後ローンで8000億円調達 買収のつなぎ融
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中