ニュース速報

ビジネス

アングル:米通信事業者の5G対応、「看板倒れ」の現実

2021年10月24日(日)08時40分

米通信事業者は今、「5G」が使える地域を地図上にピンクや青で記し、いかにも広範囲をカバーしているかのように見せている。しかし最も整備が進んだ州でさえ、高速サービスに対応した地域は3分の1に満たないことが、最新のデータで分かった。写真はロンドンの携帯電話ショップで昨年1月撮影(2021年 ロイター/Toby Melville)

[ワシントン 14日 ロイター] - 米通信事業者は今、次世代通信規格「5G」が使える地域を地図上にピンクや青で記し、いかにも広範囲をカバーしているかのように見せている。しかし最も整備が進んだ州でさえ、高速サービスに対応した地域は3分の1に満たないことが、最新のデータで分かった。

5Gは4Gよりも通信速度が速い設計になっており、ほとんど遅延が無いため自動運転車などの実用化に役立つ。周波数帯によって性能が異なり、低周波数帯では通信速度が最も遅い代わりに電波が遠くまで飛ぶという強みがある。中周波数帯では電波の飛ぶ範囲が狭くなるが、通信速度は速くなる。高周波数帯では電波が1マイル程度しか飛ばないが、今のところスピードは最速だ。高周波数帯が使える地域はまだほとんどない。

オープンシグナルが14日公表した分析結果によると、試験参加者がTモバイルの5Gに接続できた確率は34.7%、AT&Tは16.4%、ベライゾンはわずか9.7%だった。しかも全般的に、多くの人々が5Gに期待する最速スピードでは利用できなかった。

これらの数字は、通信事業者が広告で約束しているのとは程遠い。激戦のモバイルサービスにおいて、各社がいかに5Gに賭けているかの裏返しだ。

Tモバイルの広告は「米国で最大、最速、最も確実な5Gネットワーク」をうたう。米国の地図のほぼ全域をピンクで覆い、幅広い範囲で使えることを示唆している。この地図には、顧客がどのタイプの5Gサービスを得られるのかの区別がないが、細かい文字を読むと、低速バージョンも含まれていることが分かる。最も性能の高い「超容量」5Gは「数百都市、数百万人」しか使えない。

AT&Tはグローバル・ワイヤレス・ソリューションズに委託した試験結果を引き合いに「最も確実な5Gネットワーク」を誇る。しかし高速の「5Gプラス」は「20州余りの選ばれた高速ゾーンや場所で利用可能」となっている。

広告と実態の格差について尋ねたところ、Tモバイルのバイスプレジデント、グラント・キャッスル氏は「当社のネットワークが私の望み通りの規模と広さに達しているかと言われると、ノーだ。まだ取り組みの途上にある」と述べた。

AT&Tのネットワークサービス幹部、アンドレ・フーチュ氏は電子メールで、5Gは「まだ生まれて間もなく、現在進行中の投資と革新を通じて進化、発展していく」との見解を示した。

ベライゾンも8月、「最も確実」という宣伝文句を修正し、特に5Gサービスについて言及したものではないことを示唆する内容にした。

権利擁護団体「パブリック・ノレッジ」のハロルド・フェルド氏は5Gの現状について、「実現するまでは実現したふりをする」段階だと指摘する。

権利擁護団体「インスティテュート・フォー・ローカル・セルフ・リライアンス」のクリストファー・ミッチェル氏は、全般に最新技術の到着が最も遅れるのは低所得地域や一部の農村部だと指摘。農村部における5Gは往々にして「徐々に速くなる4G」にすぎないと述べた。

世界的に見ても状況は似通っている。オープンシグナルが9月初めに出した報告書によると、5Gの接続率が最も高いのは韓国の28.1%で、次いでサウジアラビア、クウェート、香港がいずれも25%超だった。

(Diane Bartz記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中