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焦点:FRBのタカ派シフトでドル急伸、売り持ち解消本格化なら一段高も

2021年06月18日(金)12時57分

6月17日、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派シフトによって、ずっと低迷していたドルが急伸した。写真は米ドル紙幣。2015年3月撮影(2021年 ロイター/Gary Cameron)

[17日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のタカ派シフトによって、ずっと低迷していたドルが急伸した。売り持ちの巻き戻しが本格化すれば、ドルが一段と押し上げられてもおかしくないとの観測も広がりつつある。

FRBは16日に終わった連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げ開始の想定時期を2024年以降から23年中に前倒しした。これを受けて主要6通貨に対するドル指数は17日までの2日間の上昇率が15カ月ぶりの大きさになる勢いとなり、水準は4月半ば以来に達した。

それまでは、物価上昇にもかかわらず超緩和的な姿勢を維持するとFRBが一貫して表明。今年に入ってドルは一時約3年ぶりの安値に沈む場面もあった。ドル安に賭けるポジションは数カ月もの間、主流となっていた。

ところが今回のFOMC結果で、市場の思惑は変化したようだ。というのも米国が予想より早く利上げすれば、利回りを求める投資家にとってはユーロや円などに対しドルの魅力が高まる。早速ゴールドマン・サックスとドイツ銀行はFOMC後に、ユーロ高/ドル安に賭けるポジションを圧縮するよう投資家に提言した。

マネックス・ヨーロッパのシニアFX市場アナリスト、サイモン・ハーベイ氏は「外為市場は、FRBがより早期に政策を正常化するとの見方があることにようやく気づいたと思う」と話す。

ドルがさらに上昇するとの懸念から投資家が売り持ちの巻き戻しに動くようなら、現在大きな規模になっている売り持ちポジション自体がドル高を加速させるかもしれない。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、先週の通貨先物市場におけるドル売り持ちは180億ドル近くと、3カ月ぶりの高水準だった。

ヘッジファンド、ユーリゾンSLJのポートフォリオマネジャー、スティーブン・ジェン氏は「今年のほとんどの期間、圧倒的な存在感を持ち、人気を集めたドル売り持ちというテーマは今後数週間から数カ月、重大な試練に直面するだろう」と述べた。

BNPアセット・マネジメント(ニューヨーク)の通貨責任者モンシル・ポジャルリエフ氏は、FOMC後にドル買い円売りを実行。「FRBはずっと辛抱していたが、どこかで(タカ派姿勢に)向かうことは誰でも分かっている。(しかし)それが今だとは自分は思いもしなかった」と打ち明けた。

ドルが国際金融取引の中心である以上、その変動はさまざまな資産に影響を及ぼす。

例えばドル高は米国の多国籍企業の財務を圧迫しがちだ。外貨建て収入をドルに戻す上で条件が不利になるからだ。今年の物価上昇に一役買ってきたコモディティーの力強い値上がりが和らぐ可能性もある。多くの原材料価格はドル建てで、ドル高が進むと外国投資家の購買力が低下してしまう。

600億ドルの資産を預かるブルーベイ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、カスパー・ヘンセ氏は「われわれの金利上昇予想に従えば、リスク資産と株式は厳しい局面を迎える」と予想した。ヘンセ氏はFOMC後、ユーロを売り持ちにしている。

ただ一部の市場参加者はドル安に賭ける取引を維持し、その理由として毎月1200億ドルの債券買い入れを含めたFRBの緩和措置がなお健在な点を挙げた。

ゴールドマン・サックスは、世界的な景気回復が長期的にはドルを軟化させるとみている。ソシエテ・ジェネラルは17日公表したリポートで、年末のユーロ/ドルの目標水準を1.27ドルとし、足元の1.19ドルよりずっとユーロ高方向に設定した。

アムンディ・パイオニア・アセット・マネジメントの通貨戦略ディレクター兼ポートフォリオマネジャー、パレシュ・ウパダヤ氏は「ドル弱気説がチャート分析上とファンダメンタルの面で打撃を受けたのは間違いない。だが本当にドル弱気説が過去のものになったかどうか判断するのは、今の混乱が収まってからにしたい」と述べた。

ウパダヤ氏は、FOMCにかけてドル売り持ちを縮小したものの、最終的にドルは下落すると信じている。マネックス・ヨーロッパのハーベイ氏は、この先数週間に出てくるデータが予想外に強い景気回復の筋書きの妥当性を強化するのかどうかを見定めたい意向だ。

一方ドルはもっと上昇する余地があり得るとの声も聞かれる。ヘッジファンド、DGパートナーズのデービッド・ゴートン最高投資責任者はドル売り持ちについて、裁量的な戦略を採用する運用担当者とコンピューターに基づくシステマティックな戦略で動く運用担当者の双方が数多く手掛けてきたと指摘。FRBが想定外のタイミングでタカ派に転じたことで、これらのポジションの一部がいかに行き過ぎていたかが恐らくあらわになったとの見方を示した。

(Saqib Iqbal Ahmed記者、Saikat Chatterjee記者)

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