ニュース速報

ビジネス

アングル:加熱式たばこで競争激化、デバイス価格引き下げも

2018年05月31日(木)18時36分

 5月31日、加熱式たばこ市場を巡る競争が新たな局面を迎えている。需要に供給が間に合わず、店頭に並べば瞬間蒸発した時期は終わった。写真はJT社内で陳列された「プルーム・テック」関連商品。1月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 31日 ロイター] - 加熱式たばこ市場を巡る競争が新たな局面を迎えている。需要に供給が間に合わず、店頭に並べば瞬間蒸発した時期は終わった。先行したフィリップ・モリス・インターナショナルのほか、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、JT<2914.T>の大手3社が全国展開を始め、供給体制も整う中で、デバイスの価格競争も始まっている。業界関係者は「これからが本当の競争」とみている。

<大手3社そろってデバイスの価格引き下げ>

フィリップ・モリスは、6月1日から加熱式たばこ「アイコス」をこれまでより3000円値下げし、7980円にすると発表した。PMジャパンのシェリー・ゴー社長は「(紙巻たばこからアイコスに)切り替えようかどうしようか考えている人が、もっと買いやすくなってもらうために希望小売価格の引き下げを行った」と説明している。

ゴー社長は価格競争ではないと話しているものの、これまで先頭を走ってきた同社を追い上げようという他社の動きが影響した可能性は否定できない。

5月に入りBATの「グロー」は、新聞や雑誌への積極的な広告と併せて、実質2980円という驚愕の価格を打ち出した。2980円のキャンペーンは、12月20日まで行われる予定。

JTも6月4日の全国展開に併せ「プルーム・テック」のスターターキットに付いていたキャリーケースを別売りとし、価格を4000円から3000円に引き下げる。紙巻きたばこでは圧倒的なシェアを有するため、プライスリーダーだったJTも、加熱式たばこは競合他社の状況をにらみながらの価格戦略となっている。

BATジャパンの広報担当者は「採算度外視ではないが、デバイスで儲けるつもりはない。スティックを買ってもらってもうけるビジネスモデル」と言い切る。外資系証券のアナリストも、加熱式たばこ市場でのビジネスは、デバイスの商売ではなく、いかに多くの消耗品を販売するかだと指摘している。

たばこの価格は、財務省の認可制となっている。加熱式たばこも、スティックやカプセルは同様に認可が必要となるが、デバイスの価格は、パイプやライターなどと同じような扱いで、各社が戦略に応じて設定することができる。まずはデバイスを購入してもらわなければ、スティックやカプセルの売り上げにはつながらないこともあり、顧客囲い込みのためにも、デバイスの価格戦略を強化する傾向が強まっている。

<市場拡大見通しは不変>

いち早く投入された「アイコス」は、専門店に行列ができ、整理券が配られるなど人気となり、市場が立ち上がってから3年余りでたばこ市場を大きく変えた。

しかし、足元では「供給不足が解消し、各社の商品が出そろったことで、1社が先行し、供給不足で店頭に商品を並べば売れる状況ではなくなった」(業界関係者)。フィリップ・モリスの1―3月期決算は、「アイコス」の日本での販売鈍化を主な要因として、事前の市場予想を下回った。

JTはプルーム・テックの営業部隊が企業や飲食店へのアプローチを強化しているほか、フィリップモリスはトラック業界の展示会でアピールするなど、各社とも、紙巻たばこ時代には行わなかったマーケティングを活発化させている。市場が成熟したわけではなく、まだ、拡大途上にあるとの見方は各社とも一致しており、中長期の市場拡大見通しも変更していない。

JTは、2018年にたばこ総市場に占める加熱式たばこのシェアが23%(17年は12%)になるとみていたが、この見方は現在も変えていない。英調査会社ユーロモニターによると、2017年の加熱式たばこ市場は約5000億円に達したとみられ、2020年には約9300億円に拡大するとみている。

最後発となったJTも、供給体制が整ったとして、6月4日から「プルーム・テック」の全国販売を開始、いよいよ大手3社が全国でぶつかる。佐々木治道専務執行役員・国内たばこ事業プレジデントはロイターに対し「ついに準備は整った、われわれは反転攻勢に自信を持っている」とコメントしている。

さらにJTは、今年末から来年初をめどに、「プルーム・テックの進化版」と「高温加熱タイプ」の2種の新製品を市場に投入する予定を明らかにしている。他社も、現在販売している製品が最終形態ではなく、さらに進化していくとの見方を示しており、新製品の開発に取り組んでいる。今年10月から5年かけて行われるたばこ増税、それに伴う価格戦略も波乱要因となる可能性を含みながら、新たなステージでの競争は激化していきそうだ。

*見出しを修正して再送します。

(清水律子 浦中大我)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米通商代表にグリア氏指名、トランプ氏発表 元UST

ワールド

トランプ氏、NEC委員長にハセット氏起用 元CEA

ワールド

中国国防相、汚職調査の対象に 3代連続=FT

ビジネス

英自動車業界、EV販売義務化で2024年の負担は7
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 7
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 10
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中