ニュース速報

ビジネス

焦点:ギリシャ、ユーロ離脱でもアルゼンチン型回復は望み薄か

2015年07月23日(木)12時37分

 7月23日、ギリシャは辛うじてユーロ圏からの放逐を免れた。しかしいずれ発生する大規模なデフォルトとユーロ圏からの永久離脱に向けて、時計は着実に時を刻んでいるとの慎重論もある。アテネで6月撮影(2015年 ロイター/Marko Djurica)

[ロンドン 22日 ロイター] - ギリシャは辛うじてユーロ圏からの放逐を免れた。しかしいずれ発生する大規模なデフォルト(債務不履行)とユーロ圏からの永久離脱に向けて、時計は着実に時を刻んでいるとの慎重論もある。

2カ月後か2年後か分からない「その時」には、過去に大規模なデフォルトを起こしたアルゼンチンの教訓が再考されるのは間違いない。

アルゼンチンは2001年に1000億ドルと史上最大規模のデフォルトに陥った。通貨ペソはドルとのペッグ制が打ち切られ、75%も切り下がった。この結果、経済は大打撃を受け、実質国内総生産(GDP)は15%落ち込んでインフレ率は40%に達し、家計と企業の両方で資金繰りが行き詰まった。政府は今に至っても国際資本市場に復帰できずにいる。

しかしアルゼンチンは幸運にも世界的な経済情勢が追い風となり、間もなく景気が持ち直した。

ギリシャは08年から景気後退が続いて債務も巨額なため、ユーロ圏から離脱した方がうまく行くのではないかと一部のエコノミストはみている。再導入されるドラクマがユーロより50%割安になれば回復のきっかけになるのだろうか。

カリフォルニア大バークリー校のバリー・アイケングリーン教授(経済・政治科学)は、銀行制度の破綻や持続不可能な債務、国際競争力回復の必要性など、ギリシャとアルゼンチンには共通点があるとしながらも、「ギリシャの場合、ドラクマの再導入と通貨切り下げの効果がアルゼンチンよりも小さいと考える理由がある。ギリシャは市場が開かれておらず、輸出も少ない」と述べた。

隣国ブラジルの通貨が大きく下げる中、通貨ペソがドルに連動していたアルゼンチンは1999─2001年にかけて進んだドル高により輸出競争力が低下。最終的にペッグ制の廃止に追い込まれた。

ギリシャの競争力面の問題はもっと根深い。賃金が08年以来で40%減少し、単位当たり労働コストが下がったにもかかわらず、輸出が持ち直すことはなかった。

ここで疑問が持ち上がる。これほどの規模の「内部切り下げ」で競争力が高まらなかったのに、対外的な通貨価値が同程度切り下がったからといって効果は見込めるだろうか。賃金低下や通貨下落でその国の商品の価格が下がっても、結局は需要がなく供給能力の拡大余地も限られているのなら、経済活動には影響しない。

コモディティの主要輸出国であるアルゼンチンは、世界的なコモディティブームの始まりに通貨安が重なった点が幸運だった。

シティのチーフ・グローバル・エコノミストで「グレグジット」という言葉の生みの親であるウィレム・ブイター氏は「(アルゼンチンの前例が)ギリシャで繰り返されることはない。ギリシャ経済はもっと閉鎖的で、アルゼンチンが世界的なコモディティの超好循環で得たとの同じような効果を観光業や海運業で得られる望みは皆無だ」と述べた。

<需給ギャップに注意>

もっとも過去の歴史を振り返ると、通貨の大幅な減価が最終的に成長を上向かせた例は少なくない。ロシアは1998年にルーブルが75%下落した後、実質GDPが5年間で40%増加した。このほか韓国、メキシコ、マレーシア、タイなどでも通貨の下落後に成長が持ち直した例がある。

キャピタル・エコノミクスのアンドルー・ケニンガム氏は「通貨切り下げの最初の年に起こるマイナスのショックは侮れない。しかし急速な成長と雇用の回復局面が訪れるのはほぼ間違いない」と述べ、ギリシャでもアルゼンチン同様に雇用の改善が期待できるとの見方を示した。

その上、ギリシャがユーロを離脱したとしても欧州連合(EU)にはまず間違いなく残留しそうで、EU内における金融支援の純受益国であり続けるだろう。

より重要なのは需給ギャップ、すなわち実際の成長率と潜在成長率とのかい離が、回復に拍車を掛ける可能性だ。

通貨切り下げ前の需給ギャップが大きいほど、回復も大きくなる。経済開発協力機構(OECD)の計算では、ギリシャの需給ギャップは13%と極めて大きい。

(Jamie McGeever記者)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中