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トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
普天間で「転向」した鳩山の功績
Toru Hanai-Reuters
私の予想より数カ月遅かったが、鳩山政権はついに米軍普天間飛行場の移設先を06年の日米合意案に戻すことを受け入れた。ヒラリー・クリントン米国務長官来日後の22日、日米両政府は名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に滑走路を建設することで大筋合意した。
今回の2国間合意は06年の計画をほぼ再確認する内容だ。正確な建設地や建設方法などの詳細は今秋のバラク・オバマ米大統領の来日時につめると見られている。
それでも決着とは程遠い。沖縄の強い反発に加え、連立する社民党も政府案に強く反対している。加えてやっかいなのは、県外移設を強く主張していた小沢一郎幹事長が合意案に反発する可能性があることだろう。
鳩山政権の「回れ右」を批判したくもなる。だが、当初から政府は06年合意案の再検討も含め、あらゆる選択肢を残して話し合うと繰り返し強調してきた。以前にも述べたが、鳩山政権は誠意を持って対応していた。06年合意を見直すことで、より良い解決策を見つけたいと心から願っていたはずだ。
■参院選前に最優先課題から外せた
鳩山政権のごく控えめな提案に米政府がここまで厳しい対応をとったりせず、もっと早く日本側に譲歩の余地があるというシグナルを送っていれば、ここまで大きな問題に発展することもなく、何ヶ月も前に解決していたかもしれない。だが問題解決が長引いたことで沖縄県民に集団で反対行動を起こす時間を与え、06年合意の微修正版に国民の理解を得ることはかなりむずかしくなった。
鳩山政権が06年合意に当初から決して否定的ではなく、鳩山個人が総合的に見て06年合意が最善の策だと信じるようになった可能性も否定できない。慎重な言い回しをする鳩山だから、彼の本音を推し量るのは容易ではない。だが議論が長引けば長引くほど、鳩山は地域安全保障や抑止力の文脈で米軍基地について語るようになった。
政権は既にダメージを受けている。世論を分断した普天間移設問題のせいというよりは、政府の問題解決能力の欠如が最大の原因だ。国民は、鳩山政権が何カ月もドタバタ劇を続けたあげく白旗を揚げた、と見るかもしれない。7月の参院選の前に普天間問題を最優先課題から外し、ほかの問題に集中する(そして国民の注意も向けさせる)ことができるのが、鳩山政権にとってのせめてもの救いだ。
日米同盟はどうなるのだろうか。全ての当事者が納得する案を検討するために時間がほしいと要求した鳩山の態度が、同盟にダメージを与えると米政府は警告した。だが日米同盟は悲観論者が考えるより強固なようだ。中国海軍の活動の活発化や、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件のお陰だと言えなくもない。
■日米同盟をめぐる議論への一歩
鳩山政権内の一部には、日米同盟から日中の連携に軸足を移す考えを支持する者もいるが、現実離れした提案に過ぎなかった。ところが普天間問題によって、そうした考えもより現実味を帯び始めたように見える。
アメリカの政府関係者や評論家は鳩山の要求に過剰反応していた。イギリスに新たな連立政権が誕生し、デービッド・キャメロン首相とニック・クレッグ副首相がそろって英米の「特別な関係」についての疑問を口にしても、アメリカ政府が大騒ぎしなかったことを考えればなおさらだ。彼らの言っていることは、日本の民主党の主張とそんなに違いはない。
イギリスと日本の違いは、イギリスはアメリカとEUの間で「バランシング」をしているのに過ぎないのに対し、日本はアメリカと中国の間で、どちらへ「舵を切る」か決めねばならない、という点にある。もちろんアメリカ政府にとって、イギリスとEUの接近より日本と中国の連携のほうがずっと心配のタネだ。だがそういった違いを考慮しても、鳩山への反応は過剰すぎた。
アメリカにけんかを吹っかける一方で、中国とは建設的な関係を維持しようとする----そんなアジアの同盟国は鳩山政権が初めてではないし、これで最後でもない。アメリカ政府がこのことを理解することは、アメリカとその同盟国の双方に有益だ。
今回の合意は、民主党がバランスの取れたアジア中心の外交方針を放棄することを意味するものではない。その外交方針において日米同盟は重要だがすべてではない。中国のみならず、民主党がアジアの国々とより強固な2国間関係を築くうえで、日米同盟はどうあるべきか。普天間の「決断」は、この議論を始めるために必要不可欠な最初の一歩だった。
[日本時間2010年5月23日午後12時43分更新]
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