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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
「普天間で自爆」を選んだ鳩山の怪
(5月4日、普天間周辺住民との対話集会で)
Toru Hanai-Reuters
予想どおり、鳩山政権は普天間問題の決着を先送りする方針を固めたようだ。政府はこれまで5月末を最終決定の期限に設定してきたが、優柔不断な態度で沖縄の人々とアメリカ政府の双方の感情を害した挙げ句、半年後の11月まで解決を先延ばしすることに決めたらしい。
しかし普天間問題は、既に鳩山政権に大きなダメージを及ぼしている。内閣の支持率は20%を下回り、7月の参院選で与党が過半数割れするのは確実に見える。
未来の歴史家が鳩山政権の歴史を書くとき、最も頭を悩ませるのは、なぜこの政権が普天間問題を最重要課題に位置付けたのかという点だろう。
鳩山政権が行ってきたことのなかには、事業仕分けや選挙運動の自由拡大などそれなりに評価すべきものもあるが、普天間問題により、政権は致命的な打撃を被ってしまった。鳩山由紀夫首相のリーダーシップの欠如が指摘されるに至った最大の原因は、普天間問題の対応のまずさにあると言って差し支えないだろう。批判を招いたのは、この問題に関する政府の方針というより、政府が方針らしい方針を示せずにいる状況だ。
■手を着けずに済む問題だった
しかし鳩山政権はどうして、明確な行動計画もないのに、就任早々に普天間問題の泥沼に踏み込んでいったのか。
政権が発足した当時、最も簡単で賢明な選択肢は、問題を先送りすることだった。普天間飛行場の移設は、自民党政権の時代に既に予定から遅れていた。経験不足の新しい与党が政権に就いたという事情を考えれば、それをさらに遅らせても許されたはずだ。少なくとも、参院選後まで先延ばしすることは可能だったに違いない。
民主党が09年の衆院選を戦った際のマニフェスト(政策綱領)で掲げたのは、主として経済政策と国内政策だった。外交政策にはあまり触れていない。この面でも、普天間問題の解決を1年間先送りしても大きな問題はなかったはずだ。
鳩山政権は、なぜそうしなかったのか。鳩山が普天間問題に深入りした理由としては、いくつかの可能性が考えられる。
第1は、計算ミスをしていた可能性だ。バラク・オバマ大統領と一対一で話し合えば、沖縄の住民とアメリカ政府の両方が満足する解決策を見いだせると、鳩山は思い込んでいたのかもしれない。あるいは、アメリカがもっとあっさり譲歩すると思っていた可能性もある。
第2は、自民党政治との違いを鮮明にアピールする上で、普天間問題が打ってつけだと考えていた可能性もある。09年9月の政権発足から10年7月の参院選までは、1年足らずしか時間的猶予がなかった。しかし、多くの政権公約は実現するまでに時間が掛かる。その点、普天間問題であれば参院選の前に「結果」を出せる......と判断したのかもしれない(こうした甘い認識は、第1の可能性とも共通する)。
第3は、民主党がイデオロギーに突き動かされて行動したという可能性だ。しかしこの可能性は小さいと、私は思っている。鳩山政権がこの問題で強い信念をほとんど打ち出していないことがその何よりの証拠だ。政府はすべての当事者を満足させることを重んじ、普天間飛行場移設先の代替地を探す必要性しか感じていないように見える。
第4は、この問題をただちに解決すべきだと、衆院選の選挙戦を戦う過程で民主党指導部が思うようになり、その判断どおりに行動した可能性だ。
■このままでは「11月」も危うい
以上のどの仮説が鳩山政権の思考回路を最も的確に言い当てているかは分からない。そもそも、いずれの仮説も見当外れの可能性もある。
実際には、はっきりした理由などないのかもしれない。だからこそ、鳩山政権はきちんとしたプランを持ち合わせていない(ように見える)のに、普天間問題にさまよい込んでいったのだろう。
いずれにせよ、これまでの鳩山政権の対応のまずさを見る限り、期限を11月まで延長したところで、その期限までに普天間問題に決着をつけるのは簡単でないかもしれない。
[追記] この記事を私の英語版のブログに掲載した後、読者から指摘を受けた。本文では言及しなかったが、鳩山政権が普天間問題に深入りした原因としては、アメリカ政府の圧力が作用した面もあっただろう。
鳩山政権の発足間もない時期に日本を訪れたロバート・ゲーツ国防長官は、日本政府に露骨に圧力を掛けた。11月のバラク・オバマ大統領の訪日も、間接的な圧力になった。大統領が来日すれば、日本政府としては、大統領に「お土産」を用意しなければならないという意識が働くからだ。
日米間の「緊張」を報道した日本のメディアによって、鳩山や閣僚たちの発言や提案、約束は、ことごとく大きく取り上げられた。つまりこの問題で何か行動を取れば取るほど、鳩山政権はますます泥沼に深くはまり込んでいったのである。普天間問題については、引き続きこのブログで書いていきたい。
[日本時間2010年5月16日午前10時11分更新]
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