コラム

「普天間で自爆」を選んだ鳩山の怪

2010年05月17日(月)18時23分

 

窮地 鳩山はどうして普天間問題を政権の最重要課題に位置付けてしまったのか
(5月4日、普天間周辺住民との対話集会で)
Toru Hanai-Reuters
 

 予想どおり、鳩山政権は普天間問題の決着を先送りする方針を固めたようだ。政府はこれまで5月末を最終決定の期限に設定してきたが、優柔不断な態度で沖縄の人々とアメリカ政府の双方の感情を害した挙げ句、半年後の11月まで解決を先延ばしすることに決めたらしい

 しかし普天間問題は、既に鳩山政権に大きなダメージを及ぼしている。内閣の支持率は20%を下回り、7月の参院選で与党が過半数割れするのは確実に見える。

 未来の歴史家が鳩山政権の歴史を書くとき、最も頭を悩ませるのは、なぜこの政権が普天間問題を最重要課題に位置付けたのかという点だろう。

 鳩山政権が行ってきたことのなかには、事業仕分けや選挙運動の自由拡大などそれなりに評価すべきものもあるが、普天間問題により、政権は致命的な打撃を被ってしまった。鳩山由紀夫首相のリーダーシップの欠如が指摘されるに至った最大の原因は、普天間問題の対応のまずさにあると言って差し支えないだろう。批判を招いたのは、この問題に関する政府の方針というより、政府が方針らしい方針を示せずにいる状況だ。

■手を着けずに済む問題だった

 しかし鳩山政権はどうして、明確な行動計画もないのに、就任早々に普天間問題の泥沼に踏み込んでいったのか。
 
 政権が発足した当時、最も簡単で賢明な選択肢は、問題を先送りすることだった。普天間飛行場の移設は、自民党政権の時代に既に予定から遅れていた。経験不足の新しい与党が政権に就いたという事情を考えれば、それをさらに遅らせても許されたはずだ。少なくとも、参院選後まで先延ばしすることは可能だったに違いない。

 民主党が09年の衆院選を戦った際のマニフェスト(政策綱領)で掲げたのは、主として経済政策と国内政策だった。外交政策にはあまり触れていない。この面でも、普天間問題の解決を1年間先送りしても大きな問題はなかったはずだ。

 鳩山政権は、なぜそうしなかったのか。鳩山が普天間問題に深入りした理由としては、いくつかの可能性が考えられる。

 第1は、計算ミスをしていた可能性だ。バラク・オバマ大統領と一対一で話し合えば、沖縄の住民とアメリカ政府の両方が満足する解決策を見いだせると、鳩山は思い込んでいたのかもしれない。あるいは、アメリカがもっとあっさり譲歩すると思っていた可能性もある。

 第2は、自民党政治との違いを鮮明にアピールする上で、普天間問題が打ってつけだと考えていた可能性もある。09年9月の政権発足から10年7月の参院選までは、1年足らずしか時間的猶予がなかった。しかし、多くの政権公約は実現するまでに時間が掛かる。その点、普天間問題であれば参院選の前に「結果」を出せる......と判断したのかもしれない(こうした甘い認識は、第1の可能性とも共通する)。

 第3は、民主党がイデオロギーに突き動かされて行動したという可能性だ。しかしこの可能性は小さいと、私は思っている。鳩山政権がこの問題で強い信念をほとんど打ち出していないことがその何よりの証拠だ。政府はすべての当事者を満足させることを重んじ、普天間飛行場移設先の代替地を探す必要性しか感じていないように見える。

 第4は、この問題をただちに解決すべきだと、衆院選の選挙戦を戦う過程で民主党指導部が思うようになり、その判断どおりに行動した可能性だ。

■このままでは「11月」も危うい

 以上のどの仮説が鳩山政権の思考回路を最も的確に言い当てているかは分からない。そもそも、いずれの仮説も見当外れの可能性もある。

 実際には、はっきりした理由などないのかもしれない。だからこそ、鳩山政権はきちんとしたプランを持ち合わせていない(ように見える)のに、普天間問題にさまよい込んでいったのだろう。

 いずれにせよ、これまでの鳩山政権の対応のまずさを見る限り、期限を11月まで延長したところで、その期限までに普天間問題に決着をつけるのは簡単でないかもしれない。

[追記] この記事を私の英語版のブログに掲載した後、読者から指摘を受けた。本文では言及しなかったが、鳩山政権が普天間問題に深入りした原因としては、アメリカ政府の圧力が作用した面もあっただろう。

 鳩山政権の発足間もない時期に日本を訪れたロバート・ゲーツ国防長官は、日本政府に露骨に圧力を掛けた。11月のバラク・オバマ大統領の訪日も、間接的な圧力になった。大統領が来日すれば、日本政府としては、大統領に「お土産」を用意しなければならないという意識が働くからだ。

 日米間の「緊張」を報道した日本のメディアによって、鳩山や閣僚たちの発言や提案、約束は、ことごとく大きく取り上げられた。つまりこの問題で何か行動を取れば取るほど、鳩山政権はますます泥沼に深くはまり込んでいったのである。普天間問題については、引き続きこのブログで書いていきたい。

[日本時間2010年5月16日午前10時11分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ヒズボラ、対イスラエル攻撃停止 停戦に関し公式見解

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル発射、2日連続 韓国の緊張緩和

ビジネス

インド中銀が金利据え置き、紛争で見通し不透明 イン

ワールド

平和維持要員死亡、イスラエルとヒズボラに責任 国連
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 7
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 8
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story