コラム

政界に居場所を失う自民改革派

2009年07月08日(水)17時45分

 麻生太郎首相と自民党は総選挙の前哨戦と位置づけられた2つの地方選挙のうち、最初の静岡県知事選で大きくつまづいた。

 当然のように、民主党は追い風を感じている。12日の東京都議選では民主党が第1党に躍進しそうな勢いだ。たとえば毎日新聞の世論調査では、民主党候補に投票すると回答した有権者が26%なのに対し、自民党は13%(公明党は6%、43%が態度未定)。ただ回答者の55%は都議選が麻生政権への審判であると考えており、このことは態度未定の43%が日曜日にだれに投票するか考えるヒントになるだろう。

 民主党はいよいよ政権交代の時が来たと感じているはずだ。

 瀬戸際に立たされた麻生は、「県知事選という地方選挙が国政に直接影響を与えることはない」とコメントした。日曜の都議選でも負けたら何と言い訳するのだろう。いったいいくつ地方選挙で敗北すれば、負けを認めるというのだろうか。たぶん麻生は都議選の敗北を、ラクイラ・サミット出席による不在のせいにするのだろう(彼の不在は自民党候補にとって好材料に思えるが)。

 自民党支配が一歩一歩崩壊に向かっている。自民党内の改革派と保守派の休戦は短期間で終わった。中川秀直はテレビ番組で再び麻生の退陣を要求した。中川は退陣が「名誉ある決断」だと言うが、選挙直前に麻生を排除して新総裁を決めることのどこが「名誉」なのだろうか。

■民主大勝なら離党議員はいらなくなる

 中川ら自民党改革派は、徐々に党内での自分たちの立場を認識し始めているようだ。党総裁をすげかえたところで、どのみち改革派の立場は極めて悪くなる。議席を失いそうな「小泉チルドレン」が多すぎるからだ(彼らは前回総選挙で辛勝したベテランの民主党候補と対決しなければならない)。

 それでも改革派が党のマニフェストに関わって何とか自分たちの政策を反映させ、自民党がぎりぎりでも政権与党に残れれば、たとえ次期首相が改革派から出なかったとしても、マニフェストを盾に党幹部に対する影響力を残すことはできる。

 だがそれより深刻なのは、万一総選挙後に離党という事態になった場合、改革派は何の交渉力もなく民主党の門を叩くことになる。総選挙で民主党が過半数を取れば、自民党の離党議員など必要ない。民主党入りを希望すれば拒否はしないだろうが、特別扱いもされないだろう(民主党内の前原グループが勢いづくことになるので、離党議員の受け入れに難色を示す議員も出るはずだ)。

 従って改革派にとっては、総選挙で自民党が勝てるように動く方が政治的には理にかなっている。勝てないまでも、予想以上に健闘して民主党の過半数を阻止すれば、離党して民主党入りする場合の交渉は有利になる。

■声高に民主批判もできないジレンマ

 自民党を変えようという改革派の信念は疑わないが、負けると分かっている戦いをあとどれだけ党内で続けることができるだろうか。民主党のマニフェストを、非現実的で「ほとんど犯罪に近い」と批判する与謝野馨のような議員とはいつまでも同じ党にはいられないだろう。もし改革派が民主党の批判を強めれば(中川は明らかに既にその方向に流れているが)、選挙後に自民党には残れないと分かっても民主党に移るのは難しくなる。

 自民党を変えることが日本を変えることだ、という改革派の偽りの看板を降ろすときが来たと思う。おそらく小泉は順番を間違えていた。本当は、日本を変えることが自民党を変えることだったのだ。自民党がなしえなかった政治、経済、行政面の改革を実行するには別の政党(現時点では民主党)が必要なのかもしれない。そういった新たな政治状況に適応して初めて、自民党は変わることができる。

[日本時間2009年07月07日13時02分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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