コラム

プーチンの成績表:巧みな情報工作で外交は大成功、でもロシアは腐敗した「泥棒の国」に

2019年12月27日(金)16時10分

DRESS CODE=服務規則 ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<欧米離反工作、秘密活動を武器にロシアの影響力を高めたが、経済は完全な失敗。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はここ数年、アイスホッケーに挑戦中だ。アリーナを埋めた1万7000人の観衆が、ホッケー界のオールスターとプレーする指導者に歓声を送る。この貴重なゲームは全国中継され、アナウンサーは息を弾ませてプーチンのゴールを報告した。

ロシアのアイスホッケーは華麗で美しく、驚くほど芸術性が高い。ただし、プーチンのスケートは未熟な3歳児のよう。試合での活躍は茶番だが、やや強引なカメラワークでそれらしく見せている。

プーチン体制自体も、見掛けを取り繕った「はりぼて」の部分が多い。私はCIA時代の経験から、ロシアの外交政策と情報工作の多くは場当たり的で不正まみれ、矛盾だらけだと断言できる。それでもプーチン政権とロシアの情報機関は忍耐と勤勉さ、並外れたスキルを発揮した。

外交政策は大成功だが

プーチンは戦略的集中と機を見るに敏な対応を武器に、世界におけるロシアの影響力を高めてきた。内政でも同様に成功を収めた。だが長期的な国力の基盤となる経済の面では、これまでの実績は惨憺たるものだ。

プーチンのロシアは、アメリカ主導で形成された戦後の国際秩序に代わり、複数の大国の「勢力圏」が併存する国際秩序の確立を目指した。この体制のほうが、より強大なアメリカに対抗してロシアの影響力を(特に中・東欧の近隣諸国で)強化できるからだ。同時にロシアの民主化や、法の統治に基づく社会と経済の民営化を求める欧米の圧力を阻止する役にも立つ。

さらにプーチンは、天敵アメリカを弱体化させるため、アメリカ人の民主主義への支持を低下させて互いに争わせようとした。米欧の引き離し、EUの弱体化、イギリスとヨーロッパ大陸の引き離し工作も進めてきた。

いずれもロシア外交の行動の自由を拡大することにつながる戦略だ。中東でも旧ソ連時代以来、久々に影響力強化に乗り出した。

プーチンは以上の全てで成功を収めた。ロシア情報機関は米民主党のヒラリー・クリントン候補をおとしめ、共和党のドナルド・トランプ候補を支援し、アメリカ社会の緊張を高めて民主主義への信頼を損なうことで、2016年の米大統領選挙に干渉。選挙結果に影響を与えた。これは歴史上、最も成功した秘密工作活動の1つだ。

プーチンのロシアはウクライナからクリミアを併合しただけでなく、事実上、ウクライナ領土の3分の1も奪った。ここでもロシアの情報機関が積極的に動いた。彼らは親ロシアの候補を支援し、親欧米の候補をおとしめることで、ウクライナへの内政干渉にかなりの程度まで成功した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story