「陰」のナショナリズムが流行る時──250年の歴史の中で
新天皇の即位を祝うパレードもナショナリズムの発露の1つだ KIM KYUNG HOON-REUTERS
<80年代後半、私は日本人ナショナリストから、アメリカ人と日本人が「世界を支配」すべきと言われたことがある。ナショナリズムとは何か>
国を愛する心、つまりナショナリズムは社会秩序の基礎であり、国民の誇りと社会的帰属意識の健全な表れと言っていいだろう。日本では11月10日、天皇の即位を祝うパレード「祝賀御列の儀」が行われ、およそ12万人が沿道を埋めた。
アメリカでは翌11日、第一次大戦終結を記念して設けられた「退役軍人の日」を迎え、民家や銀行、高速道路の陸橋などあらゆる場所に国旗が掲げられた。
一方で、ナショナリズムは「他者」の排除を正当化する手段にもなる。トランプ米大統領のスローガン「アメリカ・ファースト」は、もともと1930年代にアメリカのナショナリストと白人至上主義者が考案した排外主義的なフレーズだ。中国共産党は国民の支持を固める手段の1つとして、日本と欧米による過去の悪行を並べ立て、ナショナリストの怒りをあおる。
では、ナショナリズムとは何か。「良い」ナショナリズムと「悪い」ナショナリズムの区別はあるのか。
ナショナリズムの歴史は意外にも250年程度しかない。18世紀後半にアメリカ独立革命とフランス革命が「人民」の権利を宣言し、市民権と国民意識のよりどころとしたのが最初の発露だった。それ以前、国は王朝や宗教と結び付いていた。
「われわれ」が幅を利かせる時代
今のような国民(ネーション)の概念は、ルネサンスと産業革命を経て進化してきた。封建制の衰退、宗教の弱体化と政教分離、商業や理性主義の台頭......。全ての変化が社会組織の中心に個人の権利を置く人民主権の強化につながり、その結果として国民国家(ネーションステート)が誕生した。ナポレオンの侵略は欧州全体に国民意識の概念を広げ、さらにヨーロッパの帝国が植民地を通じて世界へ拡散した。
大まかに言って、ナショナリズムには2つの種類がある。1つは18世紀の2つの革命が体現した「理性の時代」の理想と規範を中心に置くナショナリズム運動だ。そこで強調されるのは個人の普遍的権利、法の下の平等、民主主義の勝利であり、人種、民族、宗教は背景に退いた。
しかし、全ての物事には陰と陽がある。理性は徐々に力を失い、もっと深い心理的衝動が台頭した。フランスのポピュリズム政党・国民連合(旧・国民戦線)は何十年も前から、この衝動に基づく民族的・人種的ナショナリズムを訴え続けてきたが、それが今や世界各国で政治の前面に躍り出ている。
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