コラム

棋士は感情をどうコントロールしているか、直観は正しいか、投資に生かせるか

2021年07月21日(水)17時10分

常に極限状態の中で戦い、ようやく1つの勝利をつかみ取るのがプロの世界だ。有名な話として、将棋界のレジェンド・羽生善治九段は「対局中に勝利を確信したとき手が震える」と言われる。一説によると、勝ち筋が見えたときにそれまでの緊張感が少し和らぎ、それが震えとして現れるのだそうだ。

では、強者たちはどのように感情をコントロールするのだろうか。

将棋には、対局中に冷静さを失いそうな場面で「香車を見ろ」という言葉がある。香車とは、盤の四隅に配置されている駒のこと。つまり、盤の全体を眺めることで一旦落ち着き、気持ちを立て直すというわけだ。

「どうしても残像が消えないこともあるが、全てをリセットしてから考えたほうが良い結果を生む」と佐藤九段。

また、基本的に棋士には気が長い人が多いという。気の短い性格がいけないというわけではないが、ひとつひとつ積み重ねることの重要さが、経験を積むほど体の中に染み込んでくるからだ。

「盤上では個と個の対決。羽生九段は『直感の7割は正しい』とよく口にするが、逆に言えば3割は間違うということ。その精度を高めるためにノウハウを詰め込んだり、読みを入れたりしているが、それでも不測の事態が起こるのが将棋の魅力と面白さだ」

そして、最後に藤野氏は「将棋と投資の世界で圧倒的に違うのは、投資は1人ではないということ」と指摘。相談ができるのは一見良い面にも思えるが、多数派が必ずしも真実とは限らない。

「多くの人に聞くほど、間違いが起きる可能性がある。最終的には個人の責任で適切な対処を下すことが運用責任者として大切なことだ」

冷静さを欠く場面で頼れるのは、他人の言葉ではなくこれまで積み重ねてきた自身の経験。それが予測不能な事態を乗り切る支柱となる。

構成・酒井理恵

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プロフィール

藤野英人

レオス・キャピタルワークス 代表取締役会長兼社長、CIO(最高投資責任者)
1966年富山県生まれ。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資啓発活動にも注力しており、東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、日本取引所グループ(JPX)アカデミーフェロー、一般社団法人投資信託協会理事を務める。主な著書に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『さらば、GG資本主義――投資家が日本の未来を信じている理由』(光文社新書)など。

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