コラム

中国との「不平等条約」に屈したGE

2011年01月20日(木)18時15分

胡錦濤の訪米に合わせて大型商談の進展が発表されたが

どこが互恵? 胡錦濤の訪米に合わせて大型商談の進展が発表されたが(1月19日) Kevin Lamarque-Reuters

cleardot.gif

 1月18日にワシントン入りした胡錦濤(フー・チンタオ)中国国家主席の到着に合わせるように、米中間で大型商談が成立間近であることが発表された。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が中国の国有航空機メーカー、中国航空工業集団公司(AVIC)と合弁事業を立ち上げ、高性能な航空電子工学機器を中国の民間航空機メーカーなどに販売する計画だという。

 米中双方の財界にメリットがあるこの契約が、課題山積の米中貿易の潤滑油として仕組まれたのは間違いない。ただし実際は、この発表は、両国間に横たわる深い溝を浮き彫りにしている。

 GEのジェフリー・イメルトCEO兼会長は1年ほど前、オフレコだと思って臨んだある会合で、中国はビジネスをするには悲惨な場所だと発言。中国はGEの技術を吸い上げることに夢中で、中国国内での製造と技術移転に積極的でない外資系企業に対しては中国市場への参入が難しくなるよう操作していると不満をぶちまけた。

 その数ヵ月後にはあるスピーチで、生産拠点の行き過ぎた国外移転の危険性を力説。さらに同社の年次報告書では、アメリカ国内での投資を増やし、生産拠点の一部を外国からアメリカに戻す計画を発表した。

■無視できない莫大な航空機需要

 今回のAVICとの合弁計画は、そうした流れとは正反対だ。GEは中国に生産拠点を設け、アメリカ国民の税金と国防総省の予算がつぎ込まれた多くの技術が中国側に渡る。民間機や軍用機の分野で欧米を追い抜くという目標を掲げる中国にとっては、強力な追い風となる。

 なぜこんな事態になったのか。GEのジョン・ライス副会長は、中国で今後20年間に4000億ドル相当の航空機需要が見込めるとの予測を明かした。「そのチャンスに乗ることもできるし、何もしないで見ていることもできる。我々は傍観者になるつもりはない」

 さらにライスは「この合弁事業は、旧知の中国企業と共同で検討した末の戦略的な判断だ。中国政府に強制されたものではない」と続けた。

 なるほど。それではGEはなぜ、AVICと組まずに独自に中国市場に参入できないのか。アメリカで製造し、それを中国の航空機メーカーや航空会社向けに輸出することもできないのはなぜか。中国にはまだGE並みの技術はなく、GEの生産はAVICよりもローコストで、高度な技術を採用しているというのに。

 GEの決断の背景には、自分たちがこの計画に乗らなければライバル企業が参入するだけ、という事情があるのかもしれない。だが、ちょっと待ってほしい。それが事実なら、中国当局は国内での生産と技術移転を、中国市場参入の条件としていることになる。ライス副会長の言葉は嘘だったのか。

 中国政府がライスに直々に電話をして、生産拠点と技術の移転を命じたわけではないだろう。だが、ライスは馬鹿ではない。彼は中国に生産拠点を設立しないかぎり、ビジネスチャンスはないと判断したのだろう。

 イメルト会長も、今回の契約に先立って米商務省、国防総省、国務省の了解を得たと語っている。

■ソーラー技術の対米移転を要求せよ

 だとすると、さらに興味深い疑問が沸いてくる。今後新たに始まるであろう米中間の合弁事業のなかには、中国企業がアメリカに技術を移転し、生産拠点をアメリカに移すケースもあるのだろうか。

 答えはノーだと、誰もが思うはずだ。その通り。では、オバマ政権や関係各省はなぜ、中国に対して「アメリカ市場に輸出したいなら、アメリカで生産し、アメリカに技術を移転する必要がある」と明言しないのか。例えば、ソーラーパネルの分野では中国の技術レベルはアメリカよりずっと高い。

 GEが航空電子工学機器のテクノロジーで中国をサポートするように(しかも商務省と国防総省、国務省、さらにホワイトハウスの承認まで受けて)、中国にもソーラーパネル分野でアメリカをサポートしてもらえばいいではないか。

「互恵的」な経済パートナーシップとはそういうものだ。

──クライド・V・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長)
[米国東部時間2011年01月19日(水)14時20分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 20/01/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米追加関税の除外強く求める、産業・雇用への影響精査

ワールド

日本も相互関税対象、自民会合で政府見通し 「大きな

ワールド

日中韓が米関税へ共同対応で合意と中国国営メディアが

ワールド

ロシアと米国は関係正常化に向け一歩踏み出した=中国
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story