コラム

EUの鼻つまみ者、それはドイツ

2010年12月09日(木)15時12分

 来週ブリュッセルでは、EU各国の首脳が満面の笑みを浮かべて背中を叩き合い、囁き合う姿が見られるだろう。だが、水面下に流れる空気はもっと冷たい。

 いかなる基準で見ても、EU大国間の関係は最悪の状態にある。ルクセンブルクのジャンクロード・ユンケル首相は、EU用語の中では最大級にトゲのある言葉でドイツのアンゲラ・メルケル首相を侮辱した。彼はドイツのリベラル系週刊紙ツァイトの取材にこう言った。ドイツ政府の欧州問題の扱い方は「非欧州的」で「やや短絡的だ」。

 外交儀礼偏重でコンセンサスを何より重んずるヨーロッパでは、不満があれば眉を上げるか押し黙るかして意思表示をするのが慣例。これほど露骨に仲間割れするのは珍しい。

(メルケル批判は国内にもある。ヘルムート・シュミット元西ドイツ首相は、メルケルがブレーンとして頼りにしているドイツ連銀の銀行家たちについて聞かれ厳しい審判を下した。「彼らは心の底では復古主義者だ。欧州統合自体に反対なのだ」)

■ユーロが廃棄場送りに

 ユンケルがカッとなったのは、「ユーロ圏共通債」を発行して債務危機に苦しむEU加盟国の借り入れコストを軽減するという彼の提案を、メルケルが即座に拒絶したから。

 そもそも、欧州諸国はドイツの真意が理解できずに苛立っている。ドイツ政府は、危機に陥ったユーロ諸国は緊縮財政と競争力強化によって長期的成長を確保できるし、そうすべきだと公言している。理屈ではその通りだとしても、借り入れコストの増大と税収減で今現実に借金が返せないでいるアイルランドやポルトガル、スペインには何の助けにもならない。

 もちろん、何もしなくてもドイツ経済の相対的な優位は保たれるだろう。債務国に対するメルケルの厳しい姿勢が、ドイツ国内の一部有権者に歓迎されるのも間違いない。だがそれはユーロを歴史の廃棄場に追いやりかねない選択で、ドイツと近隣諸国との関係も修復不可能なまでに悪化するだろう。

 来週の会議でメルケルは、各国首脳に笑顔で迎えられ、会議外でのおしゃべりにも加えてもらえるかもしれないが、いつまでもそれが続くとは思わないほうがいい。

──キャメロン・アバディ
[米国東部時間2010年12月8日(水)15時26分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 9/12/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story