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ForeignPolicy.com 外交エディター24時
重要な「名古屋議定書」って何?
Yuriko Nakao-Reuters
国際メディアで報道されることは比較的少なかったものの、先週、名古屋で開かれていた国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が閉幕した。同会議では、微生物などの生物遺伝資源を採取・利用する際の利益配分などを定めた「名古屋議定書」や、生態系保全の国際目標「愛知ターゲット」などが新たに採択された。
終盤には生物資源の配分をめぐって先進国と途上国が対立し、会議は難航。一時は合意が危ぶまれる事態にもなった。ブライアン・ウォルシュは、タイム誌の環境ブログで会議のハイライトをこう記述している。
議定書に調印した国々は、地球上の陸域17%と海域の10%を2020年までに法律などで保護することを目標とすることで合意した(現在の保護区域は陸域で13%、海域ではわずか1%)。
生物多様性を脅かす問題に対して各国が行動を起こすという壮大な「使命」も盛り込まれた。こうした国々は生物の生息地域の縮小を食い止めるために目標を定め、魚の乱獲を停止し、外来種を制限し、自然破壊を食い止めるために具体的な計画を策定することだろう。
だが何より注目に値するのは、最も意見が分かれる問題において、各国代表が妥協を図り、何とか合意にこぎつけたという事実だ。20年近くのあいだ、各国は生物資源の取引――見方によっては生物資源の「窃盗行為」――をどう取り締まるか、という問題で対立してきた。途上国で採取された生物や微生物などの遺伝資源、植物、動物などが先進国で医薬品や製品として使用されている問題だ。
名古屋議定書によって今後、遺伝資源の利用と利益分配に関する国際的な体制が構築されることだろう。それに基づいて、遺伝資源の国際取引に関する基本原則の策定が始まる。
何より今回の合意によって、各国政府は途上国から確保し、特許薬や特許製品の原料として使用してきた遺伝資源に対して(あるいはどの植物や動物の成分がどんな効能を持っているのかという「その土地に昔から伝わる伝統の知恵」に対して)、途上国に利益還元する方法を考えなければならなくなる。たとえば、貧困国の自然保護や開発支援のための特別資金を設けるなどの方法が考えられる。
もちろん、今回の合意は環境保護活動家たちが望んでいたほど進歩的なものではなかったし、各国が実際に目標を達成できるかどうかは時がたってみないとわからない。
それでも、昨年の国連気候変動コペンハーゲン会議(COP15)が合意も結ばれず失意の失敗に終わり、来月のメキシコ・カンクンで開かれるCOP16でも成果が期待できないことを考えれば、今回名古屋で具体的な合意が締結できたことは快挙だ。世界規模の環境問題を解決する上で、国際協調が実を結んだ数少ない成功例として重要な意味を持つ。
■詳細な報道が会議の成功を妨げる
生物多様性を守るための取り組みは、地球温暖化問題に匹敵する喫緊の課題だ。科学者たちは、脊椎動物の全種のうち5分の1が絶滅の危機に瀕している可能性があるとしている。さらに、生物多様性の保護をめぐる社会的・政治的駆け引きは、温暖化問題に負けず劣らずすさまじい。
こんな例がある。ニューヨーク・タイムズ紙の日曜版によれば、数多くの野生の動物が生息するアフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園を通る高速道路建設計画について、タンザニアの大統領報道官はこうコメントした。「あなたがた先進国はいつも動物について話すが、われわれ途上国は人間について考えなければならないのだ」
生物多様性の問題が気候変動と肩を並べる重要事項であることは間違いない。だが、気候変動会議にはなくて生物多様性会議だけが持っている強みの1つは、この問題に対する人々の関心が比較的薄いということだろう。
コペンハーゲンでのCOP15の後に私が伝えたように、当時メディアはこの会議をめぐる出来事をこと細かに報道した。合意の草稿が事前にリークされメディアがその内容を分析したこと、ジンバブエのロバート・ムガベ大統領やベネズエラのウゴ・チャベス大統領が登場して派手に先進国批判を繰り広げたこと、バラク・オバマ米大統領がアメリカのメンツを保とうと大ばくちを打ってシャトル外交を展開したこと――。全参加国の犠牲を伴うことになる難しい合意を達成するためには、こうした報道の数々は決して役には立たなかった。
絶滅危惧種の保護を叫ぶ活動家は、彼らの理念が気候変動問題ほどには報道されていないことにいら立っているだろう。だが実際に会議を開いていざ合意をひねり出す時になってみれば、この注目の薄さが強みになることもある、ということだ。
──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年11月1日(月)12時34分更新]
Reprinted with permission from "FP Passport", 02/11/2010. ©2010 by The Washington Post. Company.
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