コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
お雛様と武者人形は男と女のステレオタイプ?
今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ
[3月25日号掲載]
先日私は子供たちを連れて、日本橋の三井ビルで行われていた日本人形の展示会に行った。小学生の娘2人は「かわいい!」と歓声を上げ、気に入った人形をその場でスケッチし始めた。一方、少し年上の息子2人は下ネタを連発し合い、人形たちがひどい目に遭う物語を考え出して楽しんでいた。
まさにいつものパターンだ。だがこうした男女の反応の違いは自然に表れるものなのか。そもそも、男の子と女の子の違いはどこから生まれるのだろう。そんなことを考えていて、気になったのが人形と武者人形だ。この2つの人形は男女の性質や行動の違いを何らかの形で映し出したものといえるのだろうか。
ヨーロッパの私の友人たちにとって、雛人形と武者人形は「クールジャパン」の象徴であり、いつもお土産希望リストに入っている。
ただし、私たちの世代はイギリスのサッチャー政権下で育ったこともあって、政治意識が高い。だから社会問題はもちろん、文化についても急進的なフェミニズムを加味した政治的分析に基づいて考える。
ある女友達は、雛人形や武者人形に魅了されることは自分の政治信条を裏切ることになるのではないかと気にしていた。女の子はかわいさと従順さが一番というイメージを植え付ける雛人形。男の子は活発で行動力があり、好戦的なイメージの武者人形。そうしたものを飾る伝統自体が、子供の態度や考え方に影響するのではないかと、彼女は疑問を呈する。
わが家では毎年、雛祭りには立雛、端午の節句にはを飾っている。しかしそれが性的な固定観念を助長し、子供の将来の選択肢を限定するかもしれないとは考えもしなかった。
一見、効率的に見える日本の男女の役割分担がいかにして保たれているのか、ヨーロッパの人々は知りたがっている。昨年の世界経済フォーラムによる男女格差指数は世界105位だったというのに、なぜ日本女性はヨーロッパ人のように機会の不平等に怒りの声を上げないのか。私の友人は、雛人形と武者人形にその要因の1つがあるのではないかと考えた。
■子供の現実とは懸け離れた存在
ヨーロッパでは、私たちの世代が親になるにつれ、玩具などで性の固定観念を子供に植え付けないようにする動きが高まってきた。広告や店での陳列方法にいち早く変革を求めたのは、進歩的な北欧の人々だった。玩具そのものは基本的に従来と同じで、ピストルも人形もある。でも広告では男女一緒に同じ玩具で遊ぶところを表現しなければならないし、売り場では「女の子向け」や「男の子向け」といった表示はご法度になった。
もっとも雛人形と武者人形の場合は、今や玩具というより鑑賞の対象であり、男女の役割を学ぶ実用的なツールではない。子供が手に取って遊ぶこともないし、彼らの生活とは懸け離れたものだ。
バービー人形とは違って、雛人形は女の子の夢や自己イメージに何の影響も与えない。同様に、ピストルを模したエアガンは戦闘への憧れを助長するかもしれないが、兜に刺激されて近所の子供を攻撃したりする可能性はほぼ皆無だ。
歴史的には確かに、雛人形と武者人形は性の固定観念を助長する役割を果たした。女雛と男雛は異性間結婚を、他の選択肢に勝るものとして象徴している。だがこうした関連性は時とともに薄れており、現代の子供たちが年に一度飾られる人形を将来の選択の土台にするとはとても思えない。
このような話をして、私は友人を安心させようとした。イングランドの自宅の居間に小さな雛人形と兜を飾ろうとしていた友人は、もう心配しないで済むと喜んだ。「安心してこの美しい人形を家に飾り、お客さんに歴史や意味を説明することができる。とっても誇らしい。私ってまさに典型的な女子ね」
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