コラム

お雛様と武者人形は男と女のステレオタイプ?

2014年04月28日(月)10時16分

今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ

[3月25日号掲載]

 先日私は子供たちを連れて、日本橋の三井ビルで行われていた日本人形の展示会に行った。小学生の娘2人は「かわいい!」と歓声を上げ、気に入った人形をその場でスケッチし始めた。一方、少し年上の息子2人は下ネタを連発し合い、人形たちがひどい目に遭う物語を考え出して楽しんでいた。

 まさにいつものパターンだ。だがこうした男女の反応の違いは自然に表れるものなのか。そもそも、男の子と女の子の違いはどこから生まれるのだろう。そんなことを考えていて、気になったのが人形と武者人形だ。この2つの人形は男女の性質や行動の違いを何らかの形で映し出したものといえるのだろうか。

 ヨーロッパの私の友人たちにとって、雛人形と武者人形は「クールジャパン」の象徴であり、いつもお土産希望リストに入っている。

 ただし、私たちの世代はイギリスのサッチャー政権下で育ったこともあって、政治意識が高い。だから社会問題はもちろん、文化についても急進的なフェミニズムを加味した政治的分析に基づいて考える。

 ある女友達は、雛人形や武者人形に魅了されることは自分の政治信条を裏切ることになるのではないかと気にしていた。女の子はかわいさと従順さが一番というイメージを植え付ける雛人形。男の子は活発で行動力があり、好戦的なイメージの武者人形。そうしたものを飾る伝統自体が、子供の態度や考え方に影響するのではないかと、彼女は疑問を呈する。

 わが家では毎年、雛祭りには立雛、端午の節句にはを飾っている。しかしそれが性的な固定観念を助長し、子供の将来の選択肢を限定するかもしれないとは考えもしなかった。

 一見、効率的に見える日本の男女の役割分担がいかにして保たれているのか、ヨーロッパの人々は知りたがっている。昨年の世界経済フォーラムによる男女格差指数は世界105位だったというのに、なぜ日本女性はヨーロッパ人のように機会の不平等に怒りの声を上げないのか。私の友人は、雛人形と武者人形にその要因の1つがあるのではないかと考えた。

■子供の現実とは懸け離れた存在

 ヨーロッパでは、私たちの世代が親になるにつれ、玩具などで性の固定観念を子供に植え付けないようにする動きが高まってきた。広告や店での陳列方法にいち早く変革を求めたのは、進歩的な北欧の人々だった。玩具そのものは基本的に従来と同じで、ピストルも人形もある。でも広告では男女一緒に同じ玩具で遊ぶところを表現しなければならないし、売り場では「女の子向け」や「男の子向け」といった表示はご法度になった。

 もっとも雛人形と武者人形の場合は、今や玩具というより鑑賞の対象であり、男女の役割を学ぶ実用的なツールではない。子供が手に取って遊ぶこともないし、彼らの生活とは懸け離れたものだ。

 バービー人形とは違って、雛人形は女の子の夢や自己イメージに何の影響も与えない。同様に、ピストルを模したエアガンは戦闘への憧れを助長するかもしれないが、兜に刺激されて近所の子供を攻撃したりする可能性はほぼ皆無だ。

 歴史的には確かに、雛人形と武者人形は性の固定観念を助長する役割を果たした。女雛と男雛は異性間結婚を、他の選択肢に勝るものとして象徴している。だがこうした関連性は時とともに薄れており、現代の子供たちが年に一度飾られる人形を将来の選択の土台にするとはとても思えない。

 このような話をして、私は友人を安心させようとした。イングランドの自宅の居間に小さな雛人形と兜を飾ろうとしていた友人は、もう心配しないで済むと喜んだ。「安心してこの美しい人形を家に飾り、お客さんに歴史や意味を説明することができる。とっても誇らしい。私ってまさに典型的な女子ね」

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ、ベラルーシに核搭載可能ミサイル配備 欧州全域へ

ワールド

仏独、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な現

ワールド

ウクライナ、米軍駐留の可能性協議 ゼレンスキー氏「

ワールド

ロ、和平交渉で強硬姿勢示唆 「大統領公邸攻撃」でウ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story