コラム

日中の裏の裏を知る歌舞伎町案内人の決断

2014年03月17日(月)08時30分

今週のコラムニスト:李小牧

〔3月11日号掲載〕

 歌舞伎町案内人は先月、日本を初めて訪れた中国人学生50人を福島県に「案内」した。中国留学の経験のある日本人学生が企画した「がんばれ福島、がんばれ日中」ツアーに同行したのだ。中国人に被災地の現状を知ってもらうため、私はこれまで何度も同種のツアーに参加してきた。福島県訪問は震災後3回目だ。

 今回驚いたのは、福島県産農作物の風評被害の深刻さ。訪れた福島県農業総合センターはもともと農業関係の試験研究機関だったが、今では仕事のかなりの部分が放射線量の測定で占められている。実際、場所によっては福島県内の放射線量は上海より低く、出荷される農作物は安心して食べることができる。ただ、そう受け止めることができない人は今も多い。

 実はわが中国人妻もその1人で、福島から持って帰ったイチゴを息子に食べさせようとしたら、「絶対ダメ!」と激怒した(実際に食べさせたら息子は「おいしい」と大喜びだったが)。日本に住んでいてこの状態なのだから、情報の少ない中国ではまだまだ誤解が続いている。このツアーに参加すると両親に報告したら、直前まで反対の電話がかかってきた中国人学生もいたほどだ。

 どうすれば海外にまで広がった風評被害をなくせるのか。震災から3年たった今も苦しんでいるのは福島の人たちだけではない。「ポスト石原慎太郎」時代を迎えたわが歌舞伎町にも課題は山積している。日中関係も悪くなるばかりだ──。

 前回、このコラムで「中国の公安当局に捕まったら......日本に帰化して選挙権を手に入れ、新宿区議選挙に立候補する」と書いた。その後、歌舞伎町のネオンの下で考えに考えて、ついに決断した。

 私、李小牧は近く日本に帰化を申請する。日本人となり、被選挙権を手にしたら、「歌舞伎町公認候補」として新宿区議選に立候補する。最短なら来年だ。

「夜の蝶」の歌舞伎町案内人に選挙活動ができるのか? そんな疑問を持つ人たちに私は言いたい。李小牧は雨の日も雪の日も街頭に立ってきた男だ。演説のため街頭に立つのは、自分の原点に戻ることにほかならない。

■共産党のスパイにはなれない

 私が帰化したら、どこかの政党が落下傘候補として国会議員にならないか、と持ち掛けてくるかもしれない。ただ、私は歌舞伎町でティッシュ配りから日本の人生を始めた。仮にステップアップするとしても、まず新宿区議として実績を積み、次は東京都議、そして最後は国会議員を目指す。それが私のやり方だ。

 目標とするのは、フィンランド出身で日本に帰化し、町議から参院議員になったツルネン・マルテイ氏だ。マルテイ氏が町議になったのが52歳、参院議員になったのは61歳のとき。私は今年54歳だから、年齢的にはそう遠くない。そもそも85歳で都知事選に出るドクター中松を見れば、何も怖いものはない。スッポンスープを飲んで精力を維持している私なら、90歳でも十分選挙戦を戦える。

 中国と日本の裏の裏まで知り尽くした私は、きっと日本の役に立つだろう。中国大陸出身の日本の政治家はこれまで誕生していない。「共産党のスパイになるのでは」と心配する人がいるかもしれないが、安心してほしい。新宿区議や都議では国家機密を知りようがないし、国会議員になったとしても、日本には特定秘密保護法があるではないか!

 新宿区議に立候補したら、まずは「歌舞伎町24時間化」を公約として掲げたい。それが実現された後にも、東京や日本、日中関係には解決すべき課題が山のように残されている。政治家としてこういった難題に取り組める──新たな挑戦に向け、歌舞伎町案内人の胸は希望と期待でいっぱいだ。

 まずは家庭内野党との交渉が最優先課題なのだが。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story